このようなAIの脅威に対して、私たちはどのような心構えを持って対応していけばいいのでしょうか。私の単純明快な答えは、「AIと闘わずに、AIと共生しなさい」ということです。たとえば、今ではAIを中心とした技術の発展によって、私たちは専門家になるスキルを身に付ける時間を大幅に短縮することができます。過去には専門家になるには長年の経験が必要とされたのですが、ビッグデータを学習したAIを活用することで専門家のスキルを可視化することができ、これまでは想像できなかったスピードで個人がスキルを修得できるようになっているのです。つまりは、個人がほかの職種に転職するハードルは大きく下がっていくことになるといえるわけです。
教養を身に付け、人間の複雑性を磨くしかない
さらに、私たちがどのような視点でスキルを磨いていけばいいのかというと、「人間が複雑であり続けようと、絶えず努力をすること」だと思っています。そういった意味では、ビジネススクールなどに通って修得するMBA(経営学修士)は大したスキルにならなくなるのかもしれません。経営学や財務会計から導かれる答えは基本的に同じになることが多いのですが、同じ答えを出せる人が増えていけば増えていくほど答えに目新しさはなくなり、ビジネスが差別化できない可能性が高まっていくからです。だからこそ、AIを活用することでいくつもの専門分野を身に付けながら、その組み合わせの効果によって複雑化していくことが求められていくのです。
注目すべき専門分野としては、文学や歴史学、美術といった人文系の教養です。これらの教養では、個人の感性や類推力、美意識によって答えが異なり、AIがとても一般化することはできない人間の複雑さを兼ね備えています。これまでの日本企業の新卒採用においては、決して戦力としては認められていなかった教養ですが、ビジネスに求められる素養そのものが「理論」から「感性」へと移ってきている感触があるなかで、これらの教養の重要性はうなぎのぼりに増していくことになるのではないでしょうか。いずれにしても、私たちはいくつかの専門家として自己研鑽や試行錯誤を繰り返し、さまざまな経験を積み重ねることで、人間の複雑さを身に付けていくことができるはずです。
最後に、新刊『AI×人口減少 ~これから日本で何が起こるのか』においては、
・ 高学歴の人々こそ失業の危機にある理由とは
・ 定年消滅後の働き方や生き方とは
・ 年金はどのくらい減るのか
・ 政府が考える増税・社会保障改革のシナリオとは
・ シェア経済とギグ経済が起こす地殻変動とは
・ 銀行、自動車、流通など、業界再編が進む理由とは
・ AI社会で求められるスキルや心構えとは
といった疑問にお答えしています。これからの10年~20年を見据えて、私たちの仕事、収入、社会がどのように変化していくか、実証的なデータを基に解説しています。ご覧いただければ幸いです。
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