「史上最悪バスジャック犯」の悲しすぎる真実

ブラジルを震撼させた事件の裏で起きたこと

「警察に捕まればきっと殺される」。警察に強い不信感を抱くサンドロは、恐怖におびえていたという――。

人質は演技をしていた(写真:フジテレビ)

実は、そもそもサンドロがこのバスに乗り込んだのは、銃で乗客を脅して金をゆすり取ろうとしていただけだった。追い込まれたサンドロは、ブラジル中が見つめる中で、行き場のないバスジャック犯となってしまった。それが“史上最悪のバスジャック事件”の真実だった。

タイムリミット前に撃ち殺されたはずの女子大学生も、実は、サンドロは狙いを外していた。「100まで数えてから撃つ。でもお前を殺しはしない。俺が撃ったら、みんなで悲鳴をあげるんだ。いいな?」。サンドロの指示どおり、人質たちは「女子大学生が殺された」と絶叫した。サンドロと人質たちは、迫真の演技をしていたのだった。

発生から4時間…衝撃の結末

発生から4時間が過ぎた時、サンドロは意外な行動に出る。突然、人質の女性を抱えたままバスを降りてきたのだ。おそらくは投降しようとしたサンドロに対し、特殊部隊の隊員は、わずか30センチメートルの至近距離から発砲。

ところが、その弾は人質の女性に当たり、女性は死亡。サンドロはそのまま警官隊に拘束され、パトカーで連行されるが、暴れるサンドロを抑えつけようとした警察官が誤って首を締め、サンドロは窒息死してしまう……。

サンドロの行動は客観的に見ると凶悪犯そのもの。ただ、警察の強硬手段は悲劇につながり、人質の女性とサンドロの死は「警察の大失態」として非難された。そして事件解決後に、バス内部の事情やサンドロの生い立ちを知った人々は事件の背景に心を痛めた。サンドロが引き起こしたバスジャック事件は人々の記憶に刻まれる「悲劇」となった。

事件から18年。今も2万人を超えるストリートチルドレンは、ブラジルの深刻な社会問題だ。サンドロの「育ての母」イボーネは、恵まれない子どもたちへの支援活動を続け、今やブラジルだけでなく、世界的にも名の知れた社会活動家となった。イボーネの開発した教育メソッドを受けた子どもは、ブラジル全土に13万人いるという。そんなイボーネは、過去に起きた2つの「悲劇」を子どもたちに語り継いでいる。第2のサンドロを生まないこと。それこそがブラジルの明るい未来につながると信じて。

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