「史上最悪バスジャック犯」の悲しすぎる真実

ブラジルを震撼させた事件の裏で起きたこと

犯人の名は、サンドロ・ド・ナシメント、21歳。スラム出身の元ストリートチルドレンだ。ためらいなく銃を撃ち、人質全員の殺害予告をする凶悪犯サンドロが、生中継を続けるテレビカメラに向かってこんな言葉を叫ぶ。「おい、ブラジル! 俺を映してくれ! 俺はカンデラリアにいた」。

サンドロが訴えた「カンデラリア」。そこはブラジル人なら誰もが知る、かつての惨劇の舞台。さらにサンドロは叫ぶ。「イボーネを今すぐここに呼べ!」「警察は卑怯者だ」。事件解決後に、犯人サンドロの過去を理解した人々は、このバスジャック事件の複雑な背景に心を痛めることになる。

ストリートチルドレンだったサンドロ(写真:フジテレビ)

リオデジャネイロの市内に立つカンデラリア教会は、ストリートチルドレンたちに敷地を開放し、多くの子どもたちがここで寝泊りをしていた。この教会で子どもたちの世話をしていたのが、ストリートチルドレンの母、イボーネ。そしてイボーネが心を通わせた1人が、まだ幼いサンドロだった。

生まれてまもなく父は蒸発、母の手で育てられたが9歳の時、母はサンドロの目の前で暴漢に刺し殺された。ストリートチルドレンとなったサンドロを母親代わりとなって育てたのがイボーネだった。

1993年7月23日に悲劇は起きる。今も語り継がれる「カンデラリア教会虐殺事件」だ。パトカーに投石したストリートチルドレンへの報復行為として、深夜、教会で寝ている子どもたちに対し、車で乗り付けた2人の警察官が無差別に発砲。8人を殺害した。その現場にサンドロはいた。サンドロも警察の標的にされた1人だったのだ。

バスジャック犯と人質の「迫真の演技」

その後、成長したサンドロは、教会を飛び出し「生きるための犯罪」に手を染めていく。窃盗や強盗、違法薬物の売買などを繰り返し、刑務所に2度収監された。

威嚇の発砲をし、人質の頭に銃を突き付けるサンドロだったが、事件発生直後、意外な行動に出ていた。人質たちに「誰も殺さないし、傷つけない」と告げていたのだ。

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