「出自」がわからない経営戦略論は有害無益だ 「経営戦略論は役に立つのか」対談:前編

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琴坂:まさしくそうですね。私も執筆時に、そのような視点を追求して構成しました。構想を考えているときに、慶應義塾大学図書館のデータベースで「経営戦略」と打ち込んだら、2100冊も出てきました(笑)。

そこで「経営学」と「三田キャンパスの図書館所蔵」に限定すると150冊。それをしらみつぶしに見ていったのですが、進化の系譜的なものとして私が満足できた著作は1冊もない。これには驚きました。

尾原:その意味でも、経営戦略の歴史を見ながら、進化の変遷を追っていくのは、野心的な試みといえますね。

琴坂:この本でもう1つ注目してほしいのが、ある理論に対して新たに登場し、新たな潮流を作り出す理論は、前者を完全には否定していないところです。むしろ、前者を尊重して議論を前に進めようとしている。あなたはここがすごいけれど、別の見方をすると、これもあるかもしれないと検証を重ねていく。対立の連鎖ではなく、拡張の連鎖という共同作業の中で、社会科学の理論は発展していくと思います。

尾原:さらにいうと、今は理論のつくり方も変わってきましたよね。これまでは、大学から大きな論文が発表されたり、コンサルティング会社が権威づけのために、使い古しのフレームワークや軸を外に出したりすることが多かったけれども、インターネットの時代になると、途中段階でもいいので先に出して、みんなで埋めていく、ないしは、アップデートしていくという、オープンソース的な共同作業に変わった。それで、多様性の爆発みたいなものが起きているように感じます。

琴坂:おっしゃるとおりですね。たとえば、この本で取り扱った「ダイナミック・ケイパビリティ」が出てきた頃までは、経営戦略においても1つのパラダイムのようなものが存在しえたと思うのですが、今は違う。まだ議論のけりがついていないのか。それとも、多様性の爆発が起きているのか。少なくともまだ共通理解が固まっていない。なので、この本でも、理論に関しては2010年以降をあえて触れずに書きました。

実践で使えるカギは「見立て」と「誂え」にある

琴坂:最近では、企業レベルでの戦略(マクロ)と個人レベルの行動(ミクロ)をどうつなげるかという議論(Micro-foundations of strategy)、もしくは行動経済学の発想を組み入れた分析(Behavioral Strategy)や、より戦略の実践に回帰した理論構築(Strategy as Practice) が盛んです。また、企業の生存の目的関数が売り上げや拡大ではなくなったときに発生する「CSR(企業の社会的責任)」や「CSV(共通価値の創造)」などの潮流。直接的にプロダクトマーケットで優位に立とうとするのではなく、たとえば規制当局への働きかけや、事業インフラの掌握により市場外の競争で優位に立とうとする「非市場戦略」など、さまざまな新しい理論構築の動きがあります。

これらを自社の戦略にどう取り入れていくのか。20世紀、組織の境界がクリアだったときの経営戦略と、現代のようにそれがフワフワとして多様なレベルで他者とつながったときの経営戦略はたぶん変わるはずです。

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