「出自」がわからない経営戦略論は有害無益だ 「経営戦略論は役に立つのか」対談:前編
尾原:それはテクノロジーと似ていますね。
僕はよく「なぜそんなに予測ができるのですか」と聞かれるのですが、やっているのは実に簡単なことです。毎年出てくる「来年の予測本」を、3年前と5年前のものと必ずセットで読むのです。予測本には、ワンショットで見て「環境パラメータから考えたら、たぶんこれが来るよ」と示されているので、3年前の環境パラメータではこれが来ると思っていたけれど、その後にこんなことが起こったから、むしろこの技術が勝ったのかと、なぜ予測とずれたのかが追跡できます。
そうすると、この先についても、「思ったより早くこの技術が出てきたので、たぶんこちらにスライドする」という方向感が見えてくるのです。
最先端の技術であっても、その本質は原点にある
尾原:もう1つ、インターネットに関して言うと、これまでは技術でできることが増えていく時代だったのですが、これからは、できないことが減る時代です。すると面白いことに、バーチャル・リアリティやブロックチェーンなどの新技術は、インターネットが生まれた瞬間に「インターネットはかくあるべし」と述べていた理想そのものです。その理想へと回帰しているのです。
琴坂:理想があったけれども、当時は制約があってできなかった。それが、今はできるようになってきたわけですね。
尾原:そうです。インターネットの初期は、サーバーがめちゃくちゃ高い、ダウンロードに対してアップロードのコストが膨大だというように、歪んだ形で始まりました。そこで歪みのない状況を理想論として描いていた時代があった。それがようやく是正されてきた中で、かつての理想を描いた本を読んだほうが、ずっと勉強になるわけです。
琴坂:確かにそうですね。ちなみに、私の前作の『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)は、紀元前3000年からスタートしています(笑)。授業で多国籍企業の起源を話すときにも、その時代から教えます。なぜかというと、根源的には、やっていることは変わってないから。
たとえば、古代メソポタミアの都市、ウルクに寺院があります。近辺ではとれない希少な鉱石を使うことで神格化を果たそうとして、遠く離れた今のイラク北部まで行って拠点を作り、そこでやり取りして新しい資源を手に入れました。これは、今の国際貿易でやっていることと変わりません。ハンムラビ法典にも、貿易で衝突が起きたら何が起きるか、船が沈んだらどうなるかなど、貿易論争の原点がすでに書かれています。
人間がやっていることは、数千年前から変わっていないのですが、そこにテクノロジー、社会、制度などが積み重なって今がある。だから、現時点の現象だけを見るのではなく、流れを理解していくと、その先がどうなるかが想定できるのでしょう。
尾原:どこから来たかを理解することが、どこへ行くかを理解する、とも言われますよね。どういう環境下で経営戦略が生まれ、その中でも変わらないものが何であるかを理解すれば、見立てを行い、その時その場の環境に適した誂えができる。茶室のように、経営戦略をつくっていけるのだと思います。
(構成:渡部典子)
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