「出自」がわからない経営戦略論は有害無益だ 「経営戦略論は役に立つのか」対談:前編
尾原:実は2年ぐらい前から、論文を読むことが増えて、本を読む量を逆転しました。以前は、最新情報はウェブでも調べられても、その裏側に潜む本質的なフレームワークや軸を考えるためには、著者が時間をかけてその知見や経験を書いた、時間の凝縮ともいえる本のほうがよいと思っていたのですが、今や、マーケティングと経営に関する論文の数や回転速度がすごく上がっています。
特に、確率論的なシミュレーションを含めて、実証や研究が進み、マーケティングと社会心理といった境界領域の研究も増えてきました。
だから、学術論文検索用のグーグル・スカラーでキーワードを追いかけてアップデートするようになったのです。その僕がなぜ『経営戦略原論』を熟読するかというと、インデックスとして役立つからです。
琴坂:面白いですね。尾原さんはコンサルタントとして多様な事例を体験され、いろいろな顧問先とのインタラクションの中から、経営のサイエンスを作り出しているというイメージがありました。その土台の上にさらにアカデミックな理論にも日常的に触れられているとお聞きし、新鮮に感じます。
経営戦略は進化論としてとらえられる
尾原:僕にとって、この本は経営戦略というよりも「進化生物論」のように見えます。経営は生き物であって、その時、そのタイミングにおける適者生存が起こるのです。その時代のどういうコンテキストの中で、どの経営戦略がいちばん生き残りやすいかというように。
しかし、そこには矛盾もあって、結局、強い経営戦略を持った生物が現れると、みんながそれを装着し始める。それで生態系が変わったりするので、次に何を装着すべきかを考え出す。そうやって、また次の適者生存としての新しい経営戦略論が生まれてくるのです。