安倍首相「改憲前のめり」で自公連立にきしみ 公明党の「錨(いかり)」が「怒り」に変わる時

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そうした中、総裁3選によって「新たな任期の3年間、新しい日本をつくる先頭に立つ」と意気込む首相の出鼻をくじいたのが、9月30日に投開票された沖縄県知事選での与党支持候補の敗北だ。今回と同様に与野党対決となった4年前の同知事選では、あえて自主投票を選択した公明党だが、今回知事選では原田稔創価学会会長が数日間現地入りし、「本土から数千人の応援要員を送り込むという異例の選挙態勢」(公明幹部)を組んで野党共闘による「オール沖縄」としのぎを削った。

しかし、結果は8万票の大差での完敗だった。米軍普天間飛行場の辺野古移設をめぐる政府・自民党の強引な手法と、知事選での数を頼んでの組織的締め付けに対する県民の反発が原因とされるが、公明党にとっても「面子丸つぶれの屈辱的な敗北」となったことは間違いない。とくに、当選した玉城デニー現知事(前自由党幹事長)の応援の輪の中で創価学会の3色旗が打ち振られるなど、基地反対派の学会員の造反が露呈したことで、現地での自公共闘にも亀裂が生じた。

このため、知事選後に公明沖縄県本部が自民党との共闘関係を事実上、棚上げしたことで、21日投開票の那覇市長選でも「オール沖縄」候補がダブルスコアで圧勝した。さらに、保守分裂選挙となった28日投開票の新潟市長選では、自民党本部の支持候補が辛うじて勝利をおさめたが、この選挙でも公明党は自主投票で自公共闘には踏み込まなかった。来春の統一地方選でも同様のケースが相次ぐとみられている。

中道政党を目指して結党し、「平和と社会福祉」を旗印とするハト派の政党として活動を続けてきた公明党にとって、第2次安倍政権発足後の、首相のタカ派色をむき出しにした「戦後の総決算」路線には、「政党として対応できない部分が少なくない」(公明幹部)のが実情だ。

自公連立により衆参両院で圧倒的多数を持つ巨大与党を形成したことが、これまでの“安倍1強政治”を支えてきた。約6年間続いてきた安倍政権で、新安保法制だけでなく、特定秘密保護法、カジノ法など、「公明党内にも抵抗が強い法案」(同)でも自民党への追随を余儀なくされてきた。「その極め付きが憲法9条改正を軸とする安倍改憲」(同)ともいえるわけだ。

「すきま風」の先に待つ「最大の岐路」

かねてから山口代表は「公明党は自民党の暴走を阻止する錨(いかり)の役目を果たすことで、国民の支持を得てきた」と胸を張ってきた。錨は英語では「ANCHOR(アンカー)」だ。辞書を引くと、「支え」「拠り所」「綱引きの一番後ろ」などの意味を持つが。自民党にとって公明党の存在はまさに山口氏のいう「錨」そのものに見える。

しかし、公明党内には「自民党の下駄の雪ではない」との「怒り」も根深く存在するとされる。「怒り」の英訳は「ANGER(アンガー)」だ。そこから、永田町では「“錨”が“怒り”に変わる時」という語呂合わせが流布している。

一昔前の流行歌「すきま風」ではないが「傷ついて すきま風 知るだろう」というのが自公連立の現状のようだ。同曲の歌詞では「いいさそれでも 生きてさえいれば いつかやさしさに めぐりあえる」と続くが、今回の改憲をめぐるあつれきが「将来の自民党の“やさしさ”につながるとは到底思えない」(公明幹部)との声も漏れてくる。

これまでも何度か、自公連立の危機がささやかれたが、その都度、山口代表は連立離脱を否定してきた。しかし、政党の政治理念の象徴となる「憲法」をめぐる自民党との溝は「これまでの危機とはレベルが違う」(創価学会幹部)ことは間違いない。「平和の党という原点を失えば、党存続の危機」(公明党幹部)となるからだ。

首相ら自民党首脳は「選挙での自公共闘はまさに共存共栄で、どんな事態になっても両党が別れることはない」と自信満々だが、「20年の節目を迎える2019年夏が自公連立関係の最大の岐路」(自民長老)となる可能性は小さくない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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