セチェッティ氏らによれば、銀行融資が不動産偏重である点も問題だ。銀行は担保の取れる不動産融資を好み、テクノロジー関連など審査の難しい案件を嫌う。このため金融セクターが過度に大きくなると、資金配分が歪み成長が阻害されるおそれがあるという。
別の研究によれば、民間部門の債務がGDP(国内総生産)の80〜100%を超えると経済に悪影響が出始める、とされる(リーマン危機当時、イギリスの民間部門債務はGDPの180%を超えていた)。金融セクターが巨大化すると為替が強くなり、輸出競争力が低下する、という説もある。
「金融性悪説」バカにできるのも今のうち?
中でも物議を醸しているのが、イギリスのシェフィールド大学による最近の調査だ。同調査は、イギリスが高度な金融ビジネスに特化した結果、経済全体にどれだけのマイナス影響があったかを試算した。
結果は、2015年までの20年間で4.5兆ポンド(約660兆円)。現在のGDPの2年分だ。仮にこの分析が正しいとすれば、われわれイギリス人はユーロスターの列車にロンドンで働くバンカーを詰め込んで、パリなどに送りつけるべきである。
このような、金融の利点もぜいたくと同じで過ぎれば毒になる、という議論も確かに一理ある。しかし、この試算にどれだけの信憑性があるのだろう。金融機関が他国に移転して失業者が生まれた場合、その失業者は全員、ほかの産業の成長によって再雇用できると言い切れるのか。そもそもイギリスの製造業は、金融以外の理由で競争力を失ったはずである。
イギリスでは今まさに、このような金融性悪説の実地検証が始まろうとしているかに見える。EU離脱交渉で驚きの突破口が現れ、モノとサービスの自由貿易圏が実現するのでもないかぎり、ロンドンの金融機能は本格的に他国へと移転していくだろう。仮にそうなった場合、イギリス人はBISのエコノミストなどの主張が正しかったことを願うほかなくなる。金融性悪説をばかにしていられるのも今のうち、ということだ。
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