安田氏「解放」で、いったい誰が得をしたのか 感情論でなく冷静に中東情勢を見極めるべき

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「シリア内で豊富な人脈と情報網を持つ」(ジャーナリストの常岡氏)カタールが、安田氏解放の”仲介”を務めたことは間違いないだろう。

カタールが日本に有利な取引をする意味はある。それは日本が電力、ガスの原料となる、LNG(液化天然ガス)の有力な購入者であることだ。カタールは、日本のLNGの輸入先の15%、第3位を占めている。

2011年3月の東日本大震災で起きた福島原子力発電所事故のあと、原発が止まった日本の電力供給を支えたのは、まぎれもなく火力発電である。その原料となるカタール産の天然ガスの緊急輸入が非常時に果たした役割はきわめて大きい。

シリア内戦への影響はほとんどない

カタールが日本に代わって、3億円とも報道されている安田氏の身代金を払ったかどうは、まだ不透明だ。カタールも国連安保理決議に拘束されているため、日本の代わりに身代金を払ったことは認めないはず。ここからは推測になるが、3億円くらいの金額は、日本とカタール間における貿易や政治情勢などで、なんなく処理できる金額だろう。

いずれにしても、この事件がシリア内戦に与える影響を考えると、「何もない」(常岡氏)が結論である。

菅官房長官がカタールとトルコに謝意を述べたように、イドリブ県に対するアサド政府軍の侵攻を何とか食い止めているトルコにも、もっと注目すべきだ。安田氏解放を感情的に論じるだけでなく、もっと冷静に、中東をめぐる複雑なパワーゲームの構図を見つめるべきである。

内田 通夫 フリージャーナリスト

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うちだ みちお / Michio Uchida

早稲田大学商学部卒。東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』の記者、編集者を歴任。

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