安田氏「解放」で、いったい誰が得をしたのか 感情論でなく冷静に中東情勢を見極めるべき

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このため、安田氏は3年以上、放置されることになる。ファルージャ事件から、政府は中東について、政府の勧告を無視して潜入し人質になった日本人には、身代金を伴う救出作業をしない慎重な姿勢へと変わる。

ところが、一時は生存が絶望視された安田氏だが、拘束していたシリアのアル・カイーダ系とされるヌスラ戦線から分離した反政府武装組織から解放され、トルコの諜報組織によって、今年10月23日にトルコ南西部のアンタキアに無事に運ばれたことがわかった。同日夜23時という遅い時間、緊急記者会見を行った菅義偉官房長官は、「安田純平さんかどうかはまだ確認がとれていない」としながらも、安田氏の解放を事実上認め、「カタールの仲介が解放につながった。日本政府は身代金を払っていない」という趣旨の会見をした。

では、なぜ今になって、安田氏が解放されたのか。

お荷物になった人質の”バーゲンセール”

まず、シリア内戦をめぐる、情勢の変化がある。一時は政権打倒かと思われたシリアのアサド現政権だが、持ち前の軍事力と秘密警察に加え、ロシア、イラン、ヒズボラー(レバノンのイラン系シーア派武装政党)の支援を受け、そのうえ反政府軍の分裂にも助けられて、形勢が逆転。今や反政府勢力に残された主要な地域は、安田氏が拘束されていた北西部のイドリブ県のみとなった。ロシアの空爆支援を受けたアサド政府軍が、いずれイドリブ県に侵攻すると予測され、政府軍による大虐殺が懸念されていたのである。

しかし、大虐殺が起きると、ロシアも非難を浴びることになる。トルコとロシアが協議し、イドリブ県内におけるイスラム過激派の重火器の排除や安全地帯の確保、イスラム過激派でない反政府勢力や難民たちのトルコ国境への移動などが合意され、実施される運びになった。

こうなるとイスラム過激派には、手間のかかる人質は、”お荷物”でしかなくなる。早く金に変えたい――。10月以降、イスラム過激派に拘束されていたイドリブ県での各国籍の人質を解放する、”人質在庫一掃のバーゲンセール”がトルコ紙などで報道された。

今回の安田氏の解放も、その流れに沿ったものだと見られる。イスラム過激派の比較をすると、ISよりも、アル・カイーダ系のヌスラ戦線のほうが狂信度は低い。ヌスラ戦線から派生した「フッダニ・アスリーン」と呼ばれるグループに拘束されていたという、安田氏に幸運が味方したのかもしれない。

それにしても、なぜ、カタールが間に入ったのか。カタールは人口、領土の小さい小国ながら、豊富な天然ガス資源を持ち、アラブ世界で初めて世界に通用する放送局「アルジャジーラ」を立ち上げた野心的な国だ。もともとサウジアラビアと同様、安全保障をアメリカに依存している。カタールには、アメリカの中央軍の基地がある。しかし、サウジアラビアと対決が深まると、トルコ軍が助っ人で駐留し、イラン革命防衛隊まで進駐するという、複雑な構図の中にいる。

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