5000万人に上る患者数
2011年末、不妊に悩む広州の富豪夫婦が八つ子を出産したことがニュースになった。これが物議を醸したのは、代理母2人を使った出産だったからだ。具体的には、体外受精に成功した8個の胚のうち、3個を妻に、残り5個を2人の代理母の子宮に戻すという方法で、八つ子の出産に至った。
中国において、代理母の利用は法律で禁止されている。だが、仲介業者を罰する法はなく、今でもネットで「代理母」と検索すると、無数の斡旋業者がヒットする。
価格も代理母の教育レベルによってランクが設けられている。サイト付属のオンラインチャットで問い合わせれば、「北京の公立病院と私立病院2カ所で可能だ」「地方都市の軍事病院と提携している」などと返ってくる。北京の婦人科の医者は「管理の厳しい北京の病院でできるわけがない」と眉をひそめる。
代理母ニーズの背景には不妊症の増加に加え、子孫を残すことに対する強い思いがある。
一人っ子政策では双子や三つ子は規制の対象外とされるため、排卵誘発剤を使用したり、体外受精では2~3個の胚を移植したりすることが多い。男児を望む家庭が少なくないが、中国では産み分けや胎児の性別鑑定とそれによる中絶は禁じられている。
ただ過去には、120万元(1元=約13円)で複数の代理母を雇い、女児とわかった胎児は中絶したという話もあった。カネさえ出せば何でもありという、業界の闇がのぞく。
中国では避妊なしで1年以上子どもができない状態を不妊症と定義する。患者は約5000万人、全体の15~17%に上るといわれる。
不妊増加の要因としては、生活スタイルの変化、出産の高齢化、環境ホルモンなどに加え、中絶の繰り返しや中絶後の不適切な処置による影響を挙げる医師もいる。公開された中国の年間中絶数は延べ800万~1000万件。ネットには麻酔と3Dエコーによる安全で簡単な「無痛人工流産」の広告があふれる。
中絶が多い理由の一つには、性をタブー視する習慣から、学校できちんとした性教育が行われていないことがある。また一人っ子政策の下「優生優育(優れた子を産む)」が提唱されており、妊娠初期に知らずに飲酒したり薬を飲んだりした場合、胎児の知力に影響が出ることを懸念し、中絶を望む人もいる。
「医者として、体のことを考えれば、中絶はお勧めしない。だが、最終的に選択するのは患者だ」と、北京の不妊治療専門医院「北京天倫医院」の王紅医師は話す。「今の中絶は安全で、不妊の原因になったりするものではない。きちんと処理すれば、次にベストな状態で妊娠・出産することができる」。
なおこの「優生優育」では、第三者から卵子の提供を受ける体外受精において、より優れた学歴と容姿を持つ提供者を斡旋する業者も誕生、代理母ビジネスの一環として産業チェーンを形成している。
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