中国でも不妊治療ブーム、代理母で八つ子も 拡大する不妊ビジネス

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男性不妊に効く漢方、富裕層向けも急増中

一般的に中国では不妊治療は夫婦で行う。子孫を持つことへの願望が強く、男性も治療には積極的だ。治療法は体外受精の前に内視鏡治療、タイミング療法があるほか、漢方薬による治療に根強い人気がある。

「男性の不妊も増えているが、精子が少ない、動きが悪いといった場合、漢方はかなり効く」と語るのは、北京の漢方クリニック「御源堂」の徐文波医師だ。日本の産婦人科で漢方医として勤務した経験も持つ。

北京の漢方クリニック「御源堂」の徐文波医師。日本の産婦人科で勤務した経験も

「女性の場合は月経の血の状態を診て、薬で血を補っていく。冷えは大敵なのでお灸(きゅう)で下腹部を温める。また、胃腸の働きをよくすると体調もよくなる」(徐医師)

さらにストレスはホルモンの乱れの原因となる。中国人の女性患者には「夫の愛人に子どもができたのに自分にはできない」と悩む人が多い。「そういうときは旦那さんの扱い方も教える」と徐医師は話す。

また、漢方と西洋医学を組み合わせた治療も各病院で行われている。

「40代以降などの高齢では体の状態をよくしてから妊娠というのは難しいので、漢方で体調を整えながら排卵促進剤を使ったり、体外受精を行ったりもする」(徐医師)

体外受精は中国でもメジャーな治療法となりつつある。日中の体外受精に詳しい中国人医師は「体外受精に抵抗を感じる人は、日本以上に多く感じる。だがそれでも、年間の体外受精実施数は25万~30万件に上るのではないか」と言う。

中国における体外受精の成功率は40~45%と高いが、これは2~3個の胚を戻すためだ。費用は1回2・5万~3万元。庶民感覚では月収数カ月分だが、所得の向上が利用者の増加につながっている。ただ体外受精施設の認可は厳しく、現在は約300カ所にとどまる。「日本の600施設と比べるとかなり少なく感じる」と前述の医師は話す。

また、治療サービス面では発展途上の段階だ。中国では、歴史が長くブランド力の強い公立病院が医療レベルも人気も高い。ただそうした病院は非常に混み、診察にきめ細かさはあまり期待できない。

「診察中でも別の患者さんがどんどん部屋に入ってきた」と、情報サイト「北京ニーハオ」を運営する梶原美歌さん(40)は振り返る。中国人の夫と結婚した梶原さんは、30代後半で不妊治療を開始。不妊治療で評判の公立病院に行ったが、早朝から並ぶうえ、「あっちの検査室に行けと言われ、行った先では何しに来たんだと言われる」ような状況で、心が折れそうになった。その後、有名病院を渡り歩いたが、アバウトな対応に振り回されるなどで断念。最後にあきらめ半分で赴いた大病院で、あらためてタイミング療法の指導を受け、自然妊娠した。

新しい私立病院はテレビ広告を打ち、サイトではサービスの充実をうたっている。「天倫医院」もその一つだ。王医師は「初診から妊娠安定期まで一人の医師が責任を持って診る。担当の患者さんの名前はすべて覚えている」と話す。費用は公立病院より若干高いが、貧困者には無料で診察をすることもある。ただ、私立病院は信用の低いところも多い。

富裕層向けの漢方クリニックも急増している。今回、漢方治療について話を聞いた「御源堂」は日本語診療もあり、金額は1回600元と高めだ。「最近は、保険診療に慣れた日本人より、中国人のほうが健康におカネを惜しまない人が多い」と同院の徐医師は語る。

「欧米の基礎技術からスタートした中国の不妊治療は、社会環境や所得状況が変わる中、患者主体の医療への変化が求められている」と、日系医療商社「上海永遠幸医療科技有限公司」の範イク総経理は指摘する。不妊ビジネスは中国の変化を映し出す鏡なのかもしれない。

田中 奈美 ルポライター

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たなか なみ

東京都生まれ。2003年より北京に留学。中国の社会生活やビジネスに関するルポを各紙誌に発表。著書に『北京陳情村』(第15回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作)『中国で儲ける―大陸で稼ぐ日本人起業家たちに学べ』(新潮社)がある

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