モノが売れない!「吉祥寺」に起きている異変 小売業の売り上げが東京平均以下に

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2010年に駅ビル・ロンロンがアトレ吉祥寺に、2013年には駅南側の井ノ頭通り沿いにドン・キホーテが、2014年には京王吉祥寺駅ビル、都内最大規模のユニクロ吉祥寺店、ヤマダ電機LABI吉祥寺と大型店開業が続いた。そのくらいからだろうか。「吉祥寺がつまらなくなってきた」という話を聞くようになった。かつての、ここにしかない高品質なものを手頃に買うことができた町が、どこにでもある薄利多売の商品しか売っていない町になってきたのである。

背景には店舗賃料の高騰がある。1972年からこの地で不動産業を営むリベストの、中道通り店・山田妙子氏は「この2年ほど好立地でも空くとしばらく決まらない店舗が出てきた」と今までの吉祥寺ではありえない状況を指摘する。高すぎて決まりにくくなっているのだ。

寂れていた時期もあったが、今では吉祥寺の重要なコンテンツのひとつ、ハモニカ横丁。ただ、10年前、20年前に比べると物販が減少、飲食店中心に変化している(筆者撮影)

どれほど高いのか。好例がシャッター街転じて2000年前後から人気を集めるようになったハモニカ横丁の物件だ。たとえば2坪で15万円の物件があったという。しかも、1階、2階で1坪ずつ、2階へははしご利用というから、実質使えるのは1坪。それで15万円。銀座であれば座って数万円の商売も成立つだろうが、吉祥寺では難しい。

2坪15万円の賃料で成り立つ商売はあるのか

個人が初めての店を出す場合、月額賃料は10万円が目安とされることが多いが、吉祥寺では15万円、20万円でも物件がほとんどない。30万円で無理して出店したケースの不安定さは言うまでもなく、大手しか出店しようがないこともおわかりいただけよう。

そこまで賃料が上がった要因は2つ。1つは都心から大手資本を引っ張ってくる不動産ファンドの存在だ。それまでを上回る賃料を提示されてなびかない不動産所有者は少ない。山田氏はこれまで町になかった店や、にぎわいを生むのに必要な店に自ら声をかけるなどして、町作りを視野に入れた仲介をしてきているが、志だけでは賃料の魅力には勝てない。

もう1つ、吉祥寺ならではの要因が借地だ。吉祥寺には借地に建つ物件が多く、借地料を払う必要があるために店舗の賃料も上げざるをえないというのだ。しかも、所有者は寺。個人のように相続があるわけでなく、現在借地の土地は今後もずっと借地であり続ける。

ではなぜ、吉祥寺の繁華街の多くの土地を寺が所有しているのか。理由は江戸時代、1657年の明暦の大火までさかのぼる。この時の火災で本郷元町にあった曹洞宗吉祥寺が焼失し、駒込に移転するが、江戸幕府は門前の住民に未墾地の開墾のため武蔵野への入植を命じた。それが「吉祥寺」がないのに、地名が吉祥寺である理由なのだが、この時、新たな入植地の中心に寺が作られたのである。

当時の寺は宗門人別帖という、今で言うところの戸籍を管理していたところで、公的な役割を担っていたほか、精神的にも頼られる存在だった。その役割に鑑みると、鉄道敷設時、寺社の所有する土地に鉄道駅が作られたのは不思議ではない。

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