アドビが「アップルとの仲」を強調する事情 Adobe MAXで「iPad用アプリ」を発表

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画像編集アプリの業界標準であるPhotoshopが2019年iPadに対応するニュースは非常にインパクトの大きなものとなった(筆者撮影)

もちろんその狙いは捨てないだろうが、本来アップルが強い領域であるクリエーティブ市場の強化に乗り出すことは不思議ではない。

アップルのフィル・シラー氏が登壇した際のアドビのスコット・ベルスキー氏との会話の中で、「2015年にiPad Proが登場してから、アップルとアドビの取り組みが始まった」ことを明かした。その象徴的な存在こそ、iPad向けのPhotoshopだった。

ベルスキー氏は、30年来のコードを研究し、iPad向けに書き直すことで、フルバージョンのPhotoshopをiPadで再現したという。Photoshopはコアテクノロジーとインターフェースが一体化されていたが、iPad向けにこれを分離し、WindowsともMacとも違うiOSでの動作を可能にした。

10年前のPhotoshop形式(PSD)ファイルであっても、iPadで開くことができ、編集して保存できるという。もちろん、これらのファイルはクラウドに保存され、他のデバイスやコラボレーションの相手と共有される。

iPad ProとApple Pencilの組み合わせが登場して3年が経過し、普及台数が増えてきたことと同時に、アドビも、新しいプラットフォームを組み込む技術的な準備が整った。そんな背景が透けて見える。

「AR」という新しいメディア

6月に開催されたアップルの開発者イベント「WWDC 2018」に、アドビの技術最高責任者、アベイ・パラスニス氏が登壇し、アドビがAR向けの編集ツールを提供することを発表した。

今回のAdobe MAXでは、その編集ツール「Project Aero」が実際のクリエーティブ作業でどのように用いられるのかを披露した。

基調講演ではステージにアディダスのショップを作り、ARが導入された際の顧客体験を見せた。手前はARのシューズ、奥は実物のシューズで、画面を通して見ると、見分けがつかない(筆者撮影)

そもそも、アドビが拡張現実を選んだ理由はどこにあったのだろうか。フェイスブックやグーグルは、仮想現実(VR)に注力しており、独自のヘッドセットやコンテンツを整えている。

しかしアドビは、アップルとともにARを選んだ。その理由について、パラスニス氏はインタビューでこう答えている。

「世界中の人々の生活を変えるのがARだと考えているからです。MR、VRなど、イマーシブメディア(没入感のあるメディア)はさまざまですが、生活の中でARほど多く使われるメディアはないでしょう。ほとんどの人々は、VRヘッドセットをかけて10時間過ごさない、ということです」(パラスニス氏)

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