この絵画館は、日本初の常設の展示空間であり、最初期の美術館建築という特徴も持っている。建物の正面右側には明治天皇の生誕から即位など前半生を描いた日本画40点、正面左側には憲法発布、日清日露戦争、大喪までの後半生を描いた洋画40点が展示されている。正面がドームで、左右がシンメトリーな外観は、なんとなく国会議事堂に似ているという感じもする。
正面玄関を入った中央大広間はドーム天井で、さまざまな国産石材で装飾された壮麗な空間だ。壁面や床のモザイクには、全国各地から集められた13種類の大理石が使用されている。なかでも腰壁部分に用いられている赤みかがった色合いで菊の花弁のような文様のある「菊花石」は室内を華やかな印象にしている。16花弁の菊の花は皇室を象徴するモチーフであり、このほかにも建物の随所に菊文様の装飾を見つけることができる。
大型絵画80作品がずらりと並ぶ
左右の日本画、洋画の展示室も天井が高く「田中式スカイライト」という二重の天窓からは柔らかな自然光が入る。
縦3メートル、横2.7メートルという大型の絵画作品はホコリをかぶらないようにやや前傾した形で展示され、絵画の裏側には湿気がたまらないように通気孔が設けられているなどの工夫がなされているのも興味深い。
「大政奉還」「江戸開城談判」などさまざまなテーマを描いた全80作品にはそれぞれ奉納者がいて、約1万円の揮毫料を画家に支払った。現在の貨幣価値にすると数千万円で、画家への報酬となった。各画題を描いた画家は、これら大型の作品を描くために、揮毫料でアトリエを築いた画家もいたという。また、日本画はそれまでこれほどの大型の作品が制作されたことがなかったため、造幣局において楮紙(こうぞがみ)で「神宮紙」と呼ばれる紙が新たに製造され、これにより日本画の巨大化が始まったということだ。
また驚くべきことに、建物が竣工した大正15年(1926年)には完成していた絵画が5点しかなく、すべての絵が展示されたのは昭和11年(1936年)だったとか。日本画、洋画と見ていくと、山口蓬春、前田青邨、鏑木清方、藤島武二など現在もよく知られている画家の作品も多い。
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