「米中貿易戦争」長期化を覚悟の習近平の狙い 対外的に11月以降どういう動きを見せるのか
また続けて、こういう問いもぶつけてみた。
習近平主席は自主開発路線を強調している。しかし、経済規模は世界第2位でも、現時点では世界が真似したがるような独自の技術が中国にはほとんどないのが実態だ。
日本などが技術供与した新幹線(高速鉄道)を自分たちの現代の4大発明の1つだとすり替えるような体質であることも、よくよく知られている。確かに、トランプ大統領の強圧的手法には首を傾げざるを得ない面もあるにはあるが、独善的なやり方を続ける中国には世界の同情は集まらないのが実情ではないのか。
「中国内でも、対米強硬派で知られる研究者を除いて、知識層では中国のやや強硬な外交姿勢(巷では、国内で人気を博した中国映画『戦狼』をもじって『戦狼式外交』と政権を批判する際に使用する向きがある)への反省がある。
個人的には、『韜光養晦』(才能を隠して内に力を蓄えるという、かつての最高指導者・鄧小平が強調した外交・安保方針)がベストだったとは思う。しかし、国内では自らの任期を撤廃した習近平主席への批判も内々に燻ぶっているため、中国経済の失速と社会の不安定を何としても避けねばならない。だからこそ、『自主開発』を政権の求心力を高めるためのスローガンとしても使うのだ」
愛国心を鼓舞する演説
今回、筆者が接触した中国政府関係者、研究者のほとんどが、習近平政権は、国民の愛国心を鼓舞しつつ、自主開発を強力に推し進める方向に舵が切られたと明言した。
実際、習近平主席は、このところしきりに「自力更生」「創新技術」(イノベーション)といったキーワードを使って演説している。
たとえば5月には、マルクス生誕200周年大会、軍事科学院での視察、中央外事工作委員会、科学者を集めた大会などで、表現こそさまざまだが、「『自主創新』で世界の科学技術強国を建設する」「カギとなる革新技術の『自主創新』」とのスローガンを掲げた。
地方では4月、湖北省で長江経済ベルトに関する座談会や三峡ダムを視察した際、「自力更生」を訴えるなど、党中央の方向性を地方でも浸透させる動きを活発化させている。
9月には、黒竜江省での視察で、「先端技術や革新の技術はますます手に入れにくくなっている」と述べ、自力更生への決意を強調した。
しかし筆者の取材では、知識層のなかで「自主創新」に懐疑的、批判的な見解をとる向きも多い。ただし、表面化しないよう徹底した監視・規制体制を敷いていることも周知のとおりだ。
中国メディアでは、これまでの「中国は強国である」との報道は消え、現在は、先進国とは技術レベルで差があることを強調したうえで、「両弾一星(原爆と水爆と人工衛星)から高速鉄道、航空母艦にいたるまで達成した。
自力更生、自主創新で革新技術の壁を突破しよう。問題は時間だけだ。肝心なのは決心と意思である」などと、愛国心を鼓舞し国産化への道を中国なら達成できると強調している。