「米中貿易戦争」長期化を覚悟の習近平の狙い 対外的に11月以降どういう動きを見せるのか

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台湾海峡危機とは、台湾の李登輝総統(当時)の当選を阻止するために威嚇的に中国が軍事演習を展開したのに対し、米軍が2つの空母打撃群を派遣し、演習を抑え込まれた事態のことを指す。当時、福建省党委副書記だった習近平主席の衝撃は極めて大きかったと推測できる。事実、その後の中国は、習近平体制が確立するや国産空母製造へと邁進してきた経緯がある。

アメリカの「中間選挙」以後に要注意

中国側は、失業率の押し上げは避けられないが、景気が大幅に悪化するとは考えておらず、GDP(国内総生産)成長に大きな影響はないと考えている。

そもそも、米国の対中貿易赤字の解消は中国経済に大恐慌でも起こらない限り解決できず、中国がサプライチェーン(供給網)の末端に位置し、世界中の製品が中国から米国に向かう構造が変わらない限り解決できない、との見方だ。

実際、中国からの輸出についても、「貨物輸出の約4割、ハイテク製品輸出の約7割は外資企業によるもの」と、李克強首相も強調している。

加えて、インフラ投資の拡大など金融・財政の両面で景気の下支えをすることで、今後も景気の減速ペースは緩やかになるという計算も働いている。

今回、現況の米中貿易戦争、およびそれに関する国際的な批判への対処策として、中国側から筆者に対し、(1)中国市場の対外開放度を高める(2)知的財産の窃取については停止の約束をし、刑法犯罪として対処を強化する(3)外資に適用されている法律を中国企業と同等に近づける(4)中国企業が外資を買収する際などの補助金問題は国有企業も民間企業も外資も同一に扱う(5)または補助金の停止も検討する、といった案があり得ると提示してきた。

だが、果たしてこれらを実際に履行する意思が本当にあるのかどうかは疑問であり、その真意をよくよく見極めなければならない。何と言っても、先述した通り、手口を巧妙化させることでまだまだ西側諸国からの最先端技術入手に自信をのぞかせる政府関係者もいるのだから。

ともあれ、仮に米国や西側諸国との間で妥協点を見出したとしても、それは一時しのぎにしか過ぎないだろう。その点は中国側も強く認識しており、米国側の「中国の軍事的台頭、技術強国、人民元通貨の覇権への道を塞ぐ意志」も明らかであるだけに、中国側はあくまでも「長期戦を踏まえた戦略(自主開発)が必要なのだ」と主張するのである。

こうした方針は、今夏開催された「北戴河会議」(党指導部や長老らの非公式会議)でも支持されたと見られる。

これまでのところ、米中貿易戦争では中国側の防戦色が濃く見える。が、これは11月6日に迫った米国の中間選挙の行方を見定めている面もあり、恐らくは選挙の結果を踏まえ、本格的な対米交渉に向けて動くと見られる。

ネットも含めたメディア・言論の規制弾圧はますます苛烈を極めている。米中貿易戦争に関してだけではない体制、政権、あるいは習近平主席個人への国内での批判を抑え込み続けるとしても、対外的に11月以降どういう動きを見せるか注視したい。

(文:「新外交フォーラム」代表理事 野口 東秀)

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