「定年後も働くと年金は減額される」は本当か 60歳以降「損する働き方」「得する働き方」
では、Aさんが65歳以降も同じ賃金で働き続けたらどうなるのでしょうか?
65歳以降になると、調整の基準となる金額が46万円に引き上げられます。Aさんの賃金は25万円、老齢厚生年金は10万円ですから、合算額35万円なら調整は行われず全額受け取ることができるのです。結論として、Aさんは、64歳の1年間42万円の「損」となります。
では、同い年の奥さんであるBさんの場合はどうでしょうか? 夫婦ともに同じ会社で働き、給与も同じだったと仮定します。給与が同額であれば、支払う保険料も同額、受け取る年金額も同額です。しかし、特別支給の老齢厚生年金のスケジュールは男女で異なり、Bさんは62歳から受給となります。62歳から65歳までの3年間、月3.5万円「年金のもらい損ね」が発生し、その合計は126万円にもなります。
会社員でなければ、調整の対象にならない
もちろん、AさんもBさんも厚生年金に加入していますから、60歳以降の加入期間も将来の年金受給額に反映されます。老齢厚生年金は、平均標準報酬額に1000分の5.481を掛けた額ずつ増額されますから、月25万円の給与で65歳まで働き続けると、約8.2万円年金が増額されます。これは終身保障ですから、Aさんなら約5年で損を取り戻せるところ、Bさんは約15年かかります。もし80歳より長生きすれば、取り戻せることになります。
人の寿命は予測ができませんから、終身で保障される年金を損得で考えること自体ナンセンスです。しかし、それでももらえるはずのものがもらえないのは、多くの方にとってはその額の大小にかかわらずショックなものです。でも、個々によって事情は変わってきます。そのため、自分の場合はどうなのかをしっかり試算してみると、印象はずいぶん変わるのではないでしょうか。
「どうしても、もらえるものはすべてもらいたい!」というのであれば、働き方を変えるのも1つです。なぜかというと、在職老齢年金は「在職」であるから調整されるので、厚生年金加入でなければ、収入がいくらあっても調整の対象にならないからです。たとえば、Bさんは「在職老齢年金の影響が大きい」と考えて「会社員」ではない働き方をすれば、特別支給の老齢厚生年金は1円もカットされることなく受け取れます。
よく年金受給開始年齢を遅らせ、年金額を増額させる「繰り下げ」をすればよいのではないかと考える方もいますが、特別支給の老齢厚生年金については、繰り下げはそもそもできません。
たとえばBさんが定年後に業務を受託しフリーランスのような形態で仕事を続けると、厚生年金への加入義務はなくなります。国民年金は原則60歳までですから、保険料の支払いは終了します。Bさんは年金保険料の負担がない分、手取りは増えますし、62歳以降も月10万円の特別支給の老齢厚生年金がカットされることなく、全額受け取ることができます。
年金の話になると、私たちはなんとなく「もらう」という言葉を使いがちです。「もらう」=「みんなと同じくらいの年金がもらえる」と漠然と思いがちです。しかし年金はもらうものではありません。「若い時からコツコツと作る」ものです。だから、それまで自分が作ってこなければ年金は少ないですし、自らが請求しないと受給できないのです。
特に昨今は、65歳くらいまでは働く方が増えているので、まずは自分の場合、年金はどうなっているのかきちんと情報収集をしたうえで、働き方も含め、これからの生活設計をされることをお勧めします。この記事をぜひご参考にしていただけましたら幸いです。
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