N-BOXが圧倒的に売れまくる新車市場の死角 充実した商品性で人気呼ぶ裏側では課題も

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しかし軽自動車のような日常生活のツールは、ユーザーも冷静に選ぶ。自分にとって買う価値のある商品か否かを慎重に判断して、愛車の車検満了など、相応の時期が来たときに購入する。

つまりN-BOXのような軽自動車は、目新しさではなく、自分に合った機能と割安な価格で選ばれる。したがって需要に持続性があり、発売から時間が経過しても売れ行きが下がりにくい。その代わり失敗作は、最初から売れずに終わる。売れ方が二極分化している。

軽自動車が売れ筋になると…

今は新車として売られるクルマの36%が軽自動車だ。小型/普通車も、販売ランキングの上位には、ノート、アクア、ヴィッツ、セレナなどの5ナンバー車が並ぶ。日本の道路や駐車場などの使用環境を考えると、運転がしやすく、なおかつ車内の広い軽自動車が適する。

また日本はクルマ関連の税金が高く、軽自動車でないと、購入と所有段階の負担が重い。特に複数の車両を所有する世帯は、自動車税だけでも年額10万円を超えたりするから、軽自動車の人気が高い。

地域別に見ると、公共の交通機関が未発達な佐賀県/鳥取県/長野県などでは、軽自動車が10世帯に10台以上の割合で保有されている。逆に小型/普通車の販売比率が高い都市部では、クルマが必需品とはいえず、売れ行きも全体的に下がってきた。

今は各自動車メーカーともに、世界生産台数の80%以上を海外で売る。ホンダも海外比率が86%と高く、国内は14%だ。

そのためにレジェンド、アコード、シビックなどのセダン、CR-VのようなSUVは海外向けで、国内市場に対する小型/普通車の意欲は低い。そこで需要がN-BOXに集まった。

一方、2018年度上半期(2018年4~9月)には、国内で売られたホンダ車の内、N-BOXが34%を占めた。これに伴ってホンダの軽自動車比率も、50%まで拡大している。

この点についてホンダカーズのセールスマンは「N-BOXの人気は絶大で、フィット、シャトル、フリード、さらにミドルサイズになるステップワゴンからの乗り替えも多い」という。N-BOXは数年後に高値で売りやすく、フィットなどに比べて乗り替えの提案もしやすいから「意識的にN-BOXを推奨している面もある」とのことだ。

その代わり小型/普通車の売れ行きは、対前年比で4.7%の減少となった。N-BOXが売れるほど、小型/普通車の販売実績が下がってしまう。今の状態では、何らかの理由でN-BOXの販売が滞ると、ホンダの国内販売は大きな打撃を被る。

軽自動車では、実用性や経済性が重視されるから、ユーザーは少ない出費で賢く使うことを考える。

そうなると価格競争に発展しやすい。2019年にホンダ「N-WGN」がフルモデルチェンジを受けると、N-BOXと同じく、安全装備を大幅に進化させる。ワゴンRやムーヴとの競争も激化するから、小型/普通車の需要はますます奪われてしまう。販売の均衡が崩れ、小型/普通車の車種数が減ることも懸念される。

また軽自動車が売れ筋になると、必要に迫られたときしか買わないため、売れ行きの伸びは期待できない。

軽自動車が増えて小型/普通車が減ると、税収不足も懸念される。もともとクルマの税金は高すぎるから減って当然ともいえるが、困るのは軽自動車が増税されることだ。軽自動車税は従来の年額7200円から1万0800円に、すでに値上げされている。

前述のように軽自動車は、公共の交通機関が未発達の地域で、高齢者を含めた幅広い人達の移動を支えている。最初の届け出から13年を超えた軽自動車税の増税まで行われている現状を考えると、これ以上の増税は許されない。軽自動車のメリットと移動の自由を守るために、小型/普通車の販売に力を入れる必要がある。つまり、今の軽自動車は売れすぎだ。その象徴がN-BOXなのである。

渡辺 陽一郎 カーライフ・ジャーナリスト

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わたなべ よういちろう / Yoichiro Watanabe

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまにケガを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人たちの視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

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