北朝鮮が「終戦宣言」の合意にこだわる理由 金正恩は国内保守勢力に悩まされている?

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では、「終戦宣言」で何が変わるのか。文大統領は「平和協定は完全な非核化が達成される最終段階で成立する。その時までは既存の休戦体制は維持される。(終戦宣言をしても)国連軍司令部の地位や在韓米軍の駐留の必要性についてはまったく影響がない」と明言している。さらには「この点については、金正恩(キム・ジョンウン)委員長も同意した」とも述べている。

つまり、「終戦宣言」はアメリカと北朝鮮が「もはや戦争は終わった」という意思を表明する政治的文書であり、両国政府の批准や議会の承認などの手続きを伴うものではないようだ。ゆえに法律的には何の強制力を持つものではない。

文大統領が指摘するように、北朝鮮の非核化やミサイル廃棄が十分進まない中で、国連軍司令部の解体や在韓米軍の縮小あるいは撤退は、現実問題としても無理な話である。また、北朝鮮に対する国連安全保障理事会の経済制裁の緩和も、核問題で実質的な前進がないかぎりありえないのである。

米朝が「終戦宣言」に合意しても、半島の軍事情勢や国連の経済制裁など北朝鮮を取り巻く環境が変わる可能性はほとんどない。したがって北朝鮮が最も強く求めている「体制の保証」にもつながらないのである。

それでも「終戦宣言」に強くこだわる理由とは?

にもかかわらず北朝鮮はなぜ、「終戦宣言」に強くこだわっているのか。ここからは例によって、断片的な情報を基に推測するしかない。

朝鮮半島の「休戦」を「終戦」にしようという話は、過去に何度も登場している。今年に入ってからは4月の南北首脳会談の「板門店宣言」に、「今年中に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制を構築するため、南北米3者、または南北米中4者会談の開催を積極的に推進していく」というストーリーが描かれていた。

その後は動きが止まり、8月下旬にはアメリカのマイク・ポンペオ国務長官の訪朝が急遽、中止となった。9月に入ると南北間の動きが活発化し、9月18日に南北首脳会談が行われた。それがきっかけとなって米朝も動き出し、年内に2度目の米朝首脳会談が行われる方向となった。米朝交渉が進み始めたのと同じころ、北朝鮮が「終戦宣言」を前面に出してきたのだ。

9月初めには北朝鮮外務省幹部の小論文がネット上の北朝鮮の公式なページに掲載された。そこでは、米朝間の敵対関係は世紀をまたいで、できており、解決することは極めて難しく時間がかかるが、信頼醸成のためには、終戦の宣言が最初にできることだ、としている。そのうえで「当事国の政治的意志さえあるなら、いくらでも可能な終戦宣言から採択して戦争状態を終わらせることが合理的だ」と論じている。手始めに「終戦宣言」からやろうと言っているように読み取ることができる。

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