欧州高級車メーカーのEVはテスラに迫れるか 2019年から集中投入も性能横並びで激戦必至

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欧州・日系メーカー各社ともに、世界各国の環境規制には当面PHVやHVで対応し、徐々にEVを投入する方針だ。ただ、規制強化の動きは速く、電動車開発の進展も目まぐるしい。すでに目線は次世代のEVに向いており、各メーカーの説明員は「次世代EVに、今回と同じプラットフォーム(車台)が使われることはない」と口をそろえる。

アウディの「e-tron」のプラットフォームには、大量のリチウムイオン電池のセルが並ぶ。次世代EVの開発でも電池の大容量化がカギを握る(記者撮影)

ダイムラーのエンジニアは、「次世代EVは、特に電池の性能が現行よりもずっと高まるだろう。エネルギー密度は劇的に改善する」と豪語する。実際に、ダイムラーのトラック部門は、わずか5分の超急速充電を可能にするイスラエルの次世代電池ベンチャー、ストア・ドットに6000万ドル(約67.5億円)を出資。ディーター・ツェッチェ会長は次世代EVの開発に12億ドル(約1350億円)の投資をすると表明している。

フォルクスワーゲンも、I.D.用のEV専用プラットフォーム「MEB」の生産に向けて、60億ユーロ(約7800億円)の投資を発表したばかり。欧州メーカーの電動化にかける投資合戦は今後も熾烈を極めそうだ。

充電時間短縮では各社が協調

同時に進めなければならないのが、充電インフラの整備だ。欧州は「コンボ」と呼ばれる充電規格で統一されていて、域内では現在4778拠点で急速充電を行うことができる。EV普及に向けて、各メーカーが協調して開発に取り組んでいるのが超急速充電システムだ。2016年には、BMW、ダイムラー、フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ、フォードが合弁会社の「Ionity」を立ち上げた。

新会社「Ionity」の充電プラグ。下方の2穴のプラグでさらなる急速充電が可能に。現行の充電規格「Combo(コンボ)」にも対応(記者撮影)

現在40分ほどかかる急速充電を15分(電池容量の80%)にまで短縮することが目標だ。最大350kWの出力に対応した急速充電が可能な拠点を400カ所整備することを目指している。ジャガーやボルボなど他メーカーとの参画交渉も進んでいるという。メルセデス・ベンツのEQCには、早速Ionityに対応した充電プラグが装備されている。

規制が目前に迫る中、欧州全体で電動車の普及を急ぐ。2017年の欧州市場の保有台数に占める電動比率は、PHVやHVを含めてもわずか1.74%。とはいえ、2014年の0.65%から比べると3倍近くに比率を上げた。

EV市場における主役の座を一度はテスラに譲った欧州プレミアムカーメーカー。先進性を磨いたEVで、名実ともに再びその座を取り戻せるか。真価が問われている。

森川 郁子 東洋経済 記者

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もりかわ いくこ / Ikuko Morikawa

自動車・部品メーカー担当。慶応義塾大学法学部在学中、メキシコ国立自治大学に留学。2017年、東洋経済新報社入社。趣味はドライブと都内の芝生探し、休日は鈍行列車の旅に出ている。

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