アメリカ株はいつ「崩落」してもおかしくない 企業業績について過剰に好反応している

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市場の反応が分かれたのは、株価を取り巻くストーリーが違ったからだ。1916年当時は、企業業績の拡大は第1次世界大戦勃発に伴う欧州からの戦争特需によるもので、すぐに元に戻ると考えられていた。一方、1920年代に株高を支えたのは外国の戦争の話ではなく、自由と自己実現の物語だった。だが、このような時代のムードにもかかわらず、1920年代末には株価と企業収益は共に大暴落した。

1982〜2000年には、企業の利益が2倍程度しか伸びない中、株価は7.5倍にもなった。しかし株価と企業収益は2003年までにいずれも半減する。この時代の最終局面は「ドットコム・バブル」と呼ばれる。

現在の株高と企業業績の関係は?

その後に続く2003〜20007年には企業収益は3倍近くに拡大したのに、株価は2倍にもならなかった。投資家がドットコム・バブルの二の舞いとなるのを恐れて、慎重になっていたからだ。とはいえ、結果的には金融危機が発生し、企業収益と株価はまたもや暴落した。

では、現在の株高と企業業績の関係はどうなのか。どうやら、投資家は上げ相場が続く(少なくとも、ほかの投資家がそのように考えている)と信じ込んでいる。だからこそ、好業績に派手に反応し、株価を押し上げているのだ。

この自信がどこから来ているのかは、よくわからない。ただ、企業業績に対する健全な懐疑心を失ってしまった点に、その源があることだけは間違いなさそうだ。貿易戦争などトランプ大統領の突飛な行動は企業業績のリスク要因だが、少なくとも今のところ、業績見通しにこのようなリスクが十分に織り込まれているとは思えない。

そもそも下げ相場は、何らかの前触れや明確な理由があって訪れるとは限らない。不況にならなくても、弱気相場になることもある。今後の展開は確約できないが、現在の株高は企業業績に過剰反応してきた過去のパターンと一致するように見えてならない。

ロバート・J・シラー 米イェール大学教授

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Robert J. Shiller

ノーベル賞受賞経済学者。1972年にMITで経済学のPh.D.を取得。「資産価格の実証分析」を評価され、2013年にノーベル経済学賞を受賞。2000年に刊行された『投機バブル 根拠なき熱狂』は、アメリカのITバブル崩壊を予言した書としてベストセラーとなった。同じくノーベル経済学賞を受賞(2001年)したジョージ・A・アカロフとの共著『アニマルスピリット』も、サブプライムローンに端を発する金融危機を理解する書物としてベストセラーとなった。著書に『それでも金融はすばらしい』『不道徳な見えざる手』(アカロフとの共著)など。

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