成毛さんは夢だった本屋の道をまっしぐら 『トーキョー金融道』同窓会 第4話

拡大
縮小
2002年、東洋経済発刊の月刊誌『金融ビジネス』に、人気連載があっ た。その名は「東京金融道」。インスパイア社長(当時、現在は取締役ファウンダー)の成毛眞氏が、「金融のプロ」である藤巻健史氏(フジマキ・ジャパン代 表)と松本大氏(マネックス証券社長)に「金融の掟」を教わる、という趣旨の鼎談企画だった。この連載は、2003年刊行の『トーキョー金融道』に結実している。
2013年10月某日、その伝説の3人と担当編集者2人(日経BPの柳瀬博一さん、東洋経済のヤマダ)とが10年ぶりに集結。藤巻氏は7月の参院選挙に当選したことから、その仕事っぷりを見るためにも、集合場所は参議院議員会館とした。

なぜ藤巻さんは政治家になったのか。松本氏、成毛氏が考える日本を復活させるための秘策とは? 改ページなしでどんどん読み進めるスクロール絵巻を、6話に分けてお届けします。

第3話から続く。

ヤマダ:成毛さんも10年でだいぶ変わりましたよね。

成毛:随分変わりましたよ。

ヤマダ:TSUTAYAとかの本屋の店長をやって、ずっと本を読み続けたい、ってマイクロソフト社長の時から言っていましたよね。その夢に近づきつつある。

成毛:ああ、そうそう。そうですよね。

ヤナセ:みすず書房を買収したいんだけどどうしたらいいかっていう話もしていましたよね。

成毛:違うよ、白水社、白水社。

ヤナセ:そうだ白水社だ。

成毛:それはそうと、インスパイアはどうなったかと言うと、高槻(亮輔)に社長を譲ったんですよね、3年くらい前に。それで僕の時に投資していたやつがけっこう、今どんどん上がってきましたからね。ユーグレナなんかが。

藤巻:すごいですね、あのミドリムシの会社。

成毛:株を十数%持っていますからね。社員が5~6人しかいないから。あと100年ほど食っていける。

それ以外にも、日本初めてのハラルファンドを作ったんですよね。これはイスラムファンドです。ハラル法にのっとった投資をしますと。地銀の取引先の中小企業がとりわけマレーシアとかね。東南アジアのイスラム教国に物を出していく時の貸し金と、投資と両方合わせるやつなんで、あんまりキャピタルゲインがばっと取れるとかっていう感じじゃないんだけど、まあやってみようっていうんで、高槻くんがやっています。

藤巻:いろいろやっていますね。

HONZでヒットした『弱くても勝てます』

成毛:とはいうものの、僕は関係なくなっています、インスパイアとは。それでHONZ(ホンズ)を始めたじゃないですか。

ヤマダ:はい。

成毛:ノンフィクション限定の書評サイトであるHONZは今、1カ月のページビューが70万ページくらいになりました。

ヤナセ:おっ、それはすごい。

成毛:60万台の月が多いんだけど、とはいえ70万ページになる月もありますからね。これはけっこうでかいですよね。

ヤナセ:でかい、でかい。すごいでかい。

成毛:書評をした中では、たとえば高橋秀実さんの本がけっこう売れたんだけど、『弱くても勝てます』というやつが。それ今6万部を越えている。

ヤナセ:6万までいきましたか。開成高校野球部の話。

松本:目茶苦茶面白いですよね。僕、開成ですし。

成毛:そうだよね。

松本:バッティングだけやるっていう。

成毛:それで難しい球は逃げるって指導されている。危ないから。

ヤナセ:バントはしない。

松本:練習は3時間しかしない。

成毛:それと外野はとにかく危ないから、球が飛んできたら逃げなさいっていう指導。怪我したら大変ですからね、確かに。だけど、こんな指導で東京都大会の4回戦くらいまでは驚いたことにコールドゲームで勝つんです。開成側が勝つんですよ。開成が勝っちゃう。向こうは驚くよね。

松本:だって3年前には5回戦まで進んじゃって、そこで国士館に負けた。その国士館が甲子園に出たんですよね。

成毛:その『弱くても勝てます』のアマゾンの書評は星5つ。ダーってついていった。この高校には負けたくないって思って書く人もいる。誰か開成に負けたやつが書いている。ひどい高校だ、みたいに書いてあって。

ヤナセ:なるほど。

マンガHONZ始まる

成毛:それでHONZがどんどん大きくなったので、マンガHONZを始めようということを考えています。12月からやります。マンガHONZにはコルクの佐渡島さんがおり、漫画の直売が始まります。

だからアマゾン的にも、版元という感じになると思う。なので、ノンフィクション周りも実はHONZからの出版を始めようと思っている。アマゾンヵらの直売をやろうかと。と言っても既存の版元とケンカしてもしょうがないので、作家と握ってやるような感じで、版元にもオカネが落ちるような仕組みにしようかと思っている。

ヤナセ:説明しますと、コルクというのは、週刊モーニングの編集者だった佐渡島庸平君がやっているんです。日本は著者のエージェントがいないんですね。アメリカは全部著者エージェントがいるんですが。コルクはそういう仕事をやっているんです。

藤巻:ああ、そうなの。

ヤナセ:それ日本はこうやって出版社のだいたい社員編集者が半ばエージェントっぽく動いていたんです。彼のやった、例えば『宇宙兄弟』とか、『ドラゴン桜』とかみんなテレビになったり映画になったりすると、漫画雑誌の編集者の立ち位置だと、コンテンツを拡大できないっていうことがあった。

松本:今、『インべスターZ』っていうのをやっているんですよ。

ヤナセ:そうですね。見てます、見てます。

松本:あれはうちもからんでいるんですよ

ヤナセ:あ、マネックスが関わっているんですか。

松本:からんでいます。

ヤマダ:東洋経済オンラインに作者の三田紀房さんと松本さんの対談がありますね。

成毛:え、そうだったの? 知らなかった。

松本:連載はモーニングでしたっけ?

ヤナセ:はい、モーニングです。

成毛:まあなんかいろんなものがドロドロに関わってくるというか。怖い、怖い。怖いよ。

ヤマダ:ちなみにマンガHONZでやるのは、ジャンルって何かやっぱりこの全体をノンフィクションにしているかのように、マンガHONZもジャンルはくぎるんですか?

成毛:いや、漫画であればOKです。

ヤマダ:全部漫画。

成毛:うん。実はHONZのシステムを今、もう一回作りかけているんですよ。JBpress系にしようかと考えていて。たぶんJBpress系にするんだけど。

それで、HONZそのものは、どんどんどんどん拡大していくと思います。時代小説HONZとかね。で最終的に自分の所でやっているのは、HONZエンジン作っているだけですね。そんな感じですよね。

ヤナセ:いつのまにか成毛さんは新しいメディアプラットホームを作ったわけですよね。

成毛:そうですよね。それで他の出版社を今どんどんのっけてもらっているから、新潮と文春の文庫解説が全文載り始めたじゃないですか。それで文春が本の話ウェブ全部のっけてもいいかなくらいの話しになってきているから。
そこまでくると、あとはプラットホームですね。もう一個の話として、アマゾン、トーハンがHONZに書き始めましたからね。取次とかアマゾンの人たちが書き始めたっていうことは、もう完全にプラットホーム化しましたよね。

ヤマダ:松本さんの本が売れるか売れないかももう全部、成毛さんの胸先三寸かもしれない。

松本:そうなんですか。売れなくなりそうな気が・・・・。

ビジネス書を対象としない理由

成毛:ただビジネス書だけやらないんですよ。絶対に。なんでかというと、あれはね、影響力を行使できないんですよ。ここで言っていいのかどうかわからないけど、ビジネス書を排除している理由は、ビジネス書ってやっぱりね、本の良しあしとか書評の良しあしで売れたり売れなかったり変化しない。本当にお客が読みたいタイミングでいい本がでていれば売れるんですよ、やっぱり。なので、出る幕がない。

ヤナセ:すごくシンプルにマーケティングですよね。

成毛:うん、マーケティングだけど、他のサイエンス系のノンフィクションとか歴史系のノンフィクションだと、評伝とかはもうね、いい書評だと瞬間に売れるんで。なので、「HONZさんのおかげで」ってはじまるんだけど、ビジネス書でHONZさんのおかげはないので。だめなんですよ。

藤巻:僕はビジネス書しか書いていないから、どうして書評っていうものがそんなに影響力があるのかがわかんなかったのね。そういうことなんだね。

成毛:HONZ取り上げようと取り上げまいと、ほとんど売り上げは関係ないです。

ヤナセ:テレビのようなものなんですよね、ビジネス書はどちらかというと。

藤巻:なるほどね、確かにそうだな。

ヤナセ:だから、例えばたまたま出た時に、藤巻さんや松本さんがテレビにちょっと出て本を紹介されたっていうと、『朝ズバッ!』とかにちらっと出ただけで、ガンっとアマゾンでベストテンになるっていうのはあるんすよ。

藤巻:確かに映画も観る前には、映画評論を見てから観るもんな。同じなんだよな、やっぱりね、きっと。

ヤナセ:だからターゲットを絞られている本はHONZのような、割とエッジの立った紹介や評価があると、そこで伸びるけど。

成毛:そうそう。そうなんですよね。僕が説明しなくても、ヤナセさんが説明してくれますね(笑)。

藤巻:書評を書く人、何人くらい集めたんだっけ?

成毛:えっとね、20人くらいですよ。

藤巻:そんなもんなの?

成毛:うん。多くてもダメで、やっぱり文章が上手くなければダメなので。本の読み手よりも文章の書き手ですよね。だからね、

ヤマダ:本を読んでばかりいるような人はダメ、と。

成毛:うーん。それから評論家はダメですよね。要するに悪い点も見つけちゃう人は。ただただひたすら褒める人でなければ。

新刊しか扱わない理由

ヤナセ:HONZの書評って面白いのは、その本よりHONZが書いている話のほうが面白い気がするわけですよ。

成毛:そうなんですよね。

藤巻:そうなんだ。

ヤナセ:読み手の見立てと言うか、読み立てが面白いんです。その書評自体が読み物としておもしろい。

成毛:もう一つ、扱う本は新刊本に限っているんですよ。新刊に限っている理由は、本が出てから書店に並んでいる間に書評をしないと意味が無いから。だって松本さんの新しい本が出ても、下手をしたら1カ月でほとんどの書店から撤去されて、残っているのは丸善の丸の内店だけとか、そういうことになりかねないわけ。丸善丸の内店、大型店舗の紀伊國屋にしか並んでいない、とか。でも少なくとも久我山の啓文堂からは1カ月でなくなるんですよね。

ということは、もう売っていないのと同然なので。でも不思議なもので、そこの辺りでやっと新聞の書評が出るんです。1カ月くらいだってから。

松本:そんなもんなんですか。

成毛:だいたい2か月後かな。

ヤナセ:朝日は特に遅くて、3カ月後ですね。

成毛:だからね、書評が出ても売ってないので、結局売れないんです。みんな勘違いしていて、「なんで成毛さんのところって新刊だけですか?」って聞くんだけど、それはやっぱり本屋にあるうちに書評書けって言っているわけです。本屋から撤去されたらもうダメです。

松本:なるほど。

ヤマダ:昔はだいたい取次が、朝日新聞の書評はウォッチしていてインパクトあるから、それに合わせて朝、配本とかやっていた。最近はそれをあんまりやらなくなったから、本当にないままになって空振りをする。壮大な空振りですよね。

成毛:さっきの高橋さんの開成の本だってそう。高橋さんがHONZの1周年記念のパーティに来て、最初にあいさつしてもらったけれど、「もうおかげさまで、HONZのほう向かって寝れません」などと言いながらも、次の話は「とにかく本屋さんにあるうちに書評を書いてくれる人達は神さまです」って言っていた。

松本:それはそうでしょうね。

成毛:作家が言っているんですから。間違いないです。意外とね、マーケティング的なんですよ。作っているほうは、すごくマーケティング的に作っている。

藤巻:(おもむろに)いつも感心するんだけど、成毛さんはいろんな分野でよくそういうことに気が付くよね。

成毛:いや、単純に消費者ですからね。本の読者として単純にそれこそ新聞書評を見て買いに行ったらなかったっていう経験をしているわけです。久我山の啓文堂にはない。ほんとにそういう理由から始まるんですよ。必要は発明の母じゃないですけど、意外とね。

(第5話「日本を復活させる松本さんの秘策に続く)
 

山田 俊浩 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT