日本を復活させる松本さんの秘策 『トーキョー金融道』同窓会 第5話

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2002年、東洋経済発刊の月刊誌『金融ビジネス』に、人気連載があっ た。その名は「東京金融道」。インスパイア社長(当時、現在は取締役ファウンダー)の成毛眞氏が、「金融のプロ」である藤巻健史氏(フジマキ・ジャパン代 表)と松本大氏(マネックス証券社長)に「金融の掟」を教わる、という趣旨の鼎談企画だった。この連載は、2003年刊行の『トーキョー金融道』に結実している。
2013年10月某日、その伝説の3人と担当編集者2人(日経BPの柳瀬博一さん、東洋経済のヤマダ)とが10年ぶりに集結。藤巻氏は7月の参院選挙に当選したことから、その仕事っぷりを見るためにも、集合場所は参議院議員会館とした。

なぜ藤巻さんは政治家になったのか。松本氏、成毛氏が考える日本を復活させるための秘策とは? 改ページなしでどんどん読み進めるスクロール絵巻を、6話に分けてお届けします。

第4話から続く・・・・ 

松本:確かにね。新聞で書評を見ても書店で売っていない、となるとアマゾンでしか買えないですからね。

成毛:そうなんですよ。

松本:だいたいそうですよね。

ヤマダ:今、松本さんが本を買う時っていうのは、やっぱりアマゾンが多いんですか?

松本:ほとんどアマゾンです。

ヤマダ:藤巻さんもそうですか?

藤巻:僕ね、本は今までは時代小説しか読まなかった。もともと人の意見を聞かないことで有名だったので、経済とかマーケット分野で他の人が書いたものは全く読まなかった。だから新刊とはほとんど縁がなかったので、本屋さんで事足りていたんだ。

松本:アマゾンだけじゃないんですけどね。雑誌がちゃんと置いてある本屋が好きなんですよ。雑誌をバーって見るのが好きなのと、あとアマゾンと、あとは成田空港のTSUTAYAで、飛行機に乗る前に知らない作家の本をちょっとこう買いますよね。

成毛:つまんで買う。

松本:そうそう。つまんで持っていくという。だいたいその3つですね、本の買い方は。

成毛:雑誌の多い本屋さんって例えばどこですか? 大きいところ?

松本:大きいところもそうですが、あとセンスもありますよね。全然街の本屋でもいいんですよ。だけどセンスが悪いと雑誌の配置がなっていない。

成毛:じゃあ代官山蔦屋みたいなところがいいわけだ。

松本:そうですね。

ヤマダ:(話のコシを折って)ちょっと目線をください。写真撮りますんで。

カメラマン:(慌てて)ちょっと待ってください。はい、よろしいですか?

ヤマダ:藤巻さん、ネクタイが曲がっています。

藤巻:性格が曲がっているからね。(ネクタイを直しながら)成毛さんのピンクの服が効いていますね。

成毛:そのつもりでわざわざ買った。仕事が変わった人ということが分かるように。

藤巻:究極の本屋の親父になっちゃったからね。その意味では。

成毛:今すごいKindle(キンドル)が売れていますからね。思っていた予測の2倍くらいの普及率なんじゃないですか?

ヤナセ:やっぱりそう思います?

成毛:2倍くらい。こんなに売れると思いませんでしたね。

外国人マイナス金利はどうだろうか

ヤマダ:もう少し、話を広げてみようかと思います。藤巻さんが大臣になるっていうところを膨らませてみましょうか。

藤巻:いや、なるわけないじゃない。それは止めましょう。

ヤマダ:失礼しました、日銀総裁ですね。

松本:大臣はありえるんじゃないですか? 日銀総裁はね、すみません。無理だと思います。日銀総裁を選ぶあのプロセスはちょっと大変だから。

ヤナセ:構造的になれない、と。

松本:構造がすごいから。簡単にはなれないかもしれない。

藤巻:僕の部下から連絡があって「次の日銀総裁の選挙の時は清き一票入れます」って書いてきたな。

ヤマダ:そこは笑うところ?

藤巻:日銀総裁は選挙では選ばれないことを知っていながら送ってくるんですよ。おちょくってるんですよ。

ヤマダ:なるほど。

カメラマン:(話の流れとは無関係に)こちら、すみません。ちょっとお願いします。何枚か撮りますんで。目線をお願いします。

松本:同じポーズだと面白くない。

ヤナセ:そうですね。これ(『トーキョー金融道』の表紙をみながら)と同じポーズをして、あとで撮ってもらいましょうか。

ヤマダ:そうしましょう。

藤巻:僕が総裁やったらすぐマイナス金利ですからね。

成毛:あー、確かに(笑)。

松本:(唐突に)外国人マイナス金利とか、どうですか。

成毛:外国人マイナス金利って?

松本:外国人が買えなくさせちゃうのね。円をね。

成毛:そうか。外国人マイナス金利ってあるよな。

藤巻:それは十分ある。

松本:小さい国なら事実上やっている所ありますよ。そういう制度。

藤巻:でも、それは外国人だけじゃなくて日本全部でいいんじゃないの? そうするとみんな外貨貸資産に行きますから。大幅円安で、日本経済再建です。円で預金したら金払わなきゃいけないなんてなれば、みんな外貨にいくよ。

カメラマン:ありがとうございました~。

日本を復活させる秘策

松本:(大きな声で)そうだ、先生。

藤巻:えっ何? 先生って呼ばないでよ。

成毛:なんか悪い予感がするな。

松本:僕ね、日本をね、すごく良くするいいアイデアがあるんですよ。ちょっと、聞いてくれませんか? あ、いいんですか? こんな話をしても。

ヤマダ:どうぞ。ウェルカムです。

松本:あのね、例えば外資系の金融機関のアジアヘッドクオーターとか、あるいは日本人ができるはずのプロダクトのヘッドとかが、最近、みんな東京にいなくなっちゃったんですよ。香港かシンガポールに行っちゃった。で、ヘッドがそこに行くと、部下もそこに行くし、周りの会計士から弁護士からITから高級レストランから全部そっちに行っちゃうわけです。

成毛:なるほど、なるほど。

松本:でね、法人税率を変えようとかいろいろ言っているけど、法人税じゃないんですよ。目茶苦茶もらう親分の所得税の問題なんです。思うんだけども、配当収入とかそういうのは一切なしで、キャピタルゲインもなし、つまり今まで通り。ただし本人のその年の働きによってもらうお金の所得税の上限を、例えば2億円とか、3億円とか決めちゃうんですよ。

日本人でそんなに所得税を払っている人はあんまりいないと思うんですよ。だけども、大きな金融機関のアジアのヘッドになるような人だったらそのくらいは払っている。というか、もっと払っているわけですよ。その人が「アジアヘッドに今度なりました」っていう時に、ニューヨークかロンドンからやってきて、香港かシンガポールに着地しちゃう。

本当は子どもの教育を考えても、子どもが夜でも友達の家に遊びに行けるとか、文化面でも安全面でも、食事がおいしいという面でも、どう考えても東京がいいのに、よそに行っちゃうんです。なので、親分を東京に持ってくれば、もう全部付いてくる。これ大きいと思いませんか。

成毛:それはそうだ。

松本:子分から何から何までたくさん付いてきますから。しかも他国に払う税金を日本に払う。日本に払わないところを日本に払うのだから、税率を安くしても、税収的にも問題がないし、しかも数億円の収入がある人に限定しちゃえば、日本人はほとんど関係ないのね。だから昔でいうとバースみたいな助っ人の税金について話をしているだけなんだ、と。

藤巻:バースって古いな。

成毛:その年の所得ね、金融的な所得は除く?

松本:金融所得は一切なし。それをやると一気に元気でが出る。さらに言うならば、そういう観点でいうと世界で100人のクリエイティブなプロデュースをする人のうち、30人を2020年までに東京に連れてこようという活動をする。そうすると、それによってできるクラスターはすごい。

1人の有能な人の周りに群がるクラスターは大きいですよ。そういった人達は東京の時間で動くから、日本のテレビに出てくれたり、あるいは地元のコミュニティカレッジみたいなものに来てくれる。そうすると子どもがすごい刺激を受ける。

しかも今ね、日本の新生児のね、1割近くが日本人とその他の国のハーフなんですよね。

ヤナセ:あ、そんなになるんですか。

松本:たぶん8%とかそのくらいです。

成毛:そうなんだ。それ知らなかった。

松本:フィリピンとかブラジルの方が多いようです。他にも世界中のいろいろな地域から、ものすごいものをプロデュースする人たちにも日本に来てほしいですよね。30人来てもらうから、しっかり日本人女性も日本人男性も頑張ってもらって、その人たちを捉まえてもらって、そして子どもも作っちゃうと、無茶苦茶いいんじゃないかな。これは僕が考えるにどこにも問題がない。ひがみ根性もこれだとなかなか出にくい。もう雲の上ではなく空の上のような人たちの話なので。

成毛:それを提案する党って、維新の会なのかな(笑)?

ヤマダ:石原さんですから、どちらかというと排外的かもしれないですね。

松本:(そんな話は一切気にせず)金融だったらあっという間に効果も出ます。だって金融のアジアトップが変わる時、そのトップがどこに来るかが重要なんです。その人が移ったら部下はトップと同じ場所にすぐに引っ越しをしなければならない。それに対し、マニュファクチャリングの場合は工場などがあるので、そんなに簡単ではない。

成毛:確かにそうだ。

松本:でもアップルだって、連れてくることはできる。iPhoneって日本が2番目に売れているんでしたっけ? 中国では25万人の工場があるじゃないですか、iPhoneを作っているところ。

ヤマダ:鴻海(ほんはい)。

松本:そう鴻海。であれを管理しているアップルの人間は、本社か香港にいるんですね。日本にいるアップルの人って単なるセールスオフィスなんですよ。

成毛:そうそうそう。

松本:これは情けない話で。ちゃんとした人を東京に連れてきたほうがいいんじゃないかと思う。所得税を変えて、個人の所得税の上限をその年の働きに対する所得税の上限を1億円、2億円という具合に決めちゃうだけでいい。ほっとくだけで人が来る。

成毛:なるほど。

タレントを日本に招こう

松本:先生! どうですか?

藤巻:(懐疑的な、たしなめるようなトーンで)いや、そんなことで本当に東京に来るかな?

松本:来る、来る。

成毛:来るでしょう。

藤巻:だって要するに企業が補てんするわけだよ。どの国で働いても税率が高い国であれば、企業がその分を勘案して給料を出すわけなんだからさ。税引き後の所得でこれだけに出すと企業が決めて給料払う。

松本:しない、しない。

藤巻:いや、モルガンの場合は、そう決めていたと思うんだけど、違うのかな。

松本:できないんですよ。この話、我々の元業界からちゃんと聞いているんですけど、そういうことはできないんですって。

藤巻:できないの?

松本:要は1年とか2年はできても、あるいは金額がある程度低ければできても、多年度でやるのって無理なんです。

ヤマダ:日本に着地してもらうための制度を作ろう、と。目的ははっきりしているわけですね

松本:そうそう。みんなヘッジファンドにしたって何にしたって、そこで働いている人にとって大切なのは空気、食べるもの、教育、子どもが遊べるだけ安全なのか、という点です。そういう指標をみると、何から何まで東京のほうが絶対にいいんですよ。だけど移っちゃうのをなんとかしないとね。でね、世界のトッププロデューサー100人のうち30人が日本に住んだら、日本ってすごい国になると思うんですよ。

成毛:確かにね。

松本:毎日楽しいですよ。いろんな人がいろんな所でいろんなことしゃべったりするじゃないですか、そういう人たちが東京にいれば。

成毛:そうだね。それは本当にそうだと思う。

藤巻:でもね、やっぱり税金だけの話ではないと思うよ。国力が落ちているから行っちゃっているのであって。ビジネスが中国に移動したから、より近い所にいたいから行っているんじゃないのかな、やっぱり。

松本:いや、違うと思います。

藤巻:そうかな?

松本:だって日本株のヘッジファンドだってシンガポールでやっているんですよ、今。

成毛:そうですね。

藤巻:まあね。

松本:企業インタビューするためにはどう考えたって日本のほうがいいにも関わらず、シンガポールとか香港に行っちゃったり、とか。

成毛:香港も中国の窓口と考えなくもないとはいえ、シンガポールは奇妙ですよね。明らかにね、アジア全体に関して。

松本:これね、やるとね。金融だけじゃなくていろんな人が日本に来てくれると思う。映画監督とかも日本に来るかもしれない。

ヤマダ:タレントを招くっていうことですかね。直接的に金持ちを招くというと反発を買うから、タレントを招く、と。

藤巻:そう。たぶん反発されるんだ、日本って。

松本:タレントですもん。誰も反対しないでしょう。才能っていうのを日本、東京に連れてこようと。そして、できればその遺伝子ももらっちゃおうという・・・・・。

成毛:じゃあ(日本画家でニューヨーク在住の)千住博が引っ越してくるな、日本に。

(第6話「成毛さんがベーシックインカムを主張した」に続く)
 

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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