インスタ中毒な人をたくさん生んだカラクリ 「なじみ感」×「ネットワークの力」がカギ

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インスタグラムを成功させた第一の要素は、明快で楽しく使いやすい商品の魅力だ。私たちが視聴するメディア、購入する商品、目にするデザインはすべて「流暢性(りゅうちょうせい)」と「非流暢性」の間のどこかに存在している。

つまり、考えるのが大変易しいものと、極めて難しいものの間のどこかに位置する。多くの人々は、穏やかな「流暢性」を感じながら生活している。前に聞いたことのあるような音楽を好んで聴き、知っているキャラクターや俳優や筋書きの映画を見たがる。支持していない政党の議論には、特にそれが込み入ったもののときは、耳を傾けようともしない。

「流暢性」を生じさせる大事な要素の1つが「なじみ感」である。よく知っている考え方は、脳が処理しやすく、メンタルマップ(認知地図)の中に収納しやすい。人は美術作品を見て、以前にこれが有名な作品だと習ったことを思い出すと、「あ、これだ!」という認識の喜びを感じ、その高揚感が作品から来たものだと思ってしまう。

また、自分が持つ偏見が含まれている政論を読むと、世の中を見る自分の見方に、それが心地よく収まってくれる。そのように、「なじみ感」と「流暢性」と「事実」は、分かちがたく関係している。頭の中で、「その考え方は聞いたことがある」と「その考え方は正しいような気がする」と「その考え方は正当で真実だ」が、互いに混ざり合ってしまう。

好きな理由を考えると「好き度」が下がる理由

ここで、次のようなゲームをやってみてほしい。

1. 最近見た映画、演劇、テレビ番組で、最後まで見たものについて考え、感じたことをつぶやいてみる。
2. 1点(ひどい)から、10点(最高)までの点数をつける。
3. その映画ないし番組について、具体的によかった点を7つ、指を折りながら考える。7つ思いつくまで、途中でやめない。
4. もう1度採点し直す。

この種のゲームはよく知られている。しばしば大変興味深い現象が生じるからである。大抵の場合は、2から4に行く間に点数が下がるのだ。

好きだという理由をたくさん考えると、なぜ評価が下がるのだろう。「好きな理由」の2つ3つはすぐに思いつく。しかしその後は、考えるのが明らかにしんどくなる。つまり「非流暢性」を経験する。そして時にはそのしんどい気分が、対象となる映画やテレビ番組の質のせいであるかのように思えてしまう。

要は、あまりよく考えないほうが、より好きになれるということだ。英国の研究者が行った大胆な研究で、大学生たちにトニー・ブレア元首相について尋ねたものがある。学生たちに元首相のよいところをたくさん挙げさせれば挙げさせるほど、評価は落ちた。夫婦に相手のよいところを考えさせた実験では、魅力のポイントを少なく言わせたカップルほど、相手に対する評価が高かった。考えるのが難しくなると、その不快さが思考の対象に転嫁されるのである。

学問の世界も同様である。2014年、ハーバード大学とノースイースタン大学の共同研究チームが、アメリカ国立衛生研究所などの一流研究機関から研究資金を得やすいのは、「安心感となじみ感のある研究」なのか、それとも「非常に創造性に富む研究」なのかを知るための調査を行った。およそ150件の研究計画書を集め、まずその新規性を採点した。次に142人の世界的権威の科学者たちに、それぞれのプロジェクトを評価してもらった。

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