経済学は「人としての成長」を促進できるか 利他性や忍耐強さを身に付ける方法とは?

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なぜ複数のシステムが存在するか。環境について学習している人にとっては、環境が不安定であれば高い時間割引率のシステムで評価して、行動を頻繁に変えたほうが学習に有益である。だが環境が安定していれば、低い時間割引率のシステムで評価して、じっくり学習するほうが有益になる。この研究では、そのような解釈を行っていた。

この発表を聞くまで筆者は自分の人生の目的は、生涯効用を最大化することと考えていたのだが、聞いてからは、効用は自分が学習意欲を持つためのエサのようなものであり、人生の目的は学習にあると考えるようになった。では、何を学習するのかというと、年老いたら理想的には無条件の愛で自分が大切にされたいように、自分も無条件に誰でも大切にすることができるようになっていくという意味で、「無条件の愛」の学習だろうと考える。

この観点から自分を振り返ってみると、私は麻雀中毒にかかっていた時期があり、その頃は時間割引率がとても高く、将来の自分のことは無視して、今日の自分の効用が高ければそれでよいと思っていた。脳内で時間割引の高いシステムを主に使っていたのであろう。そこからだんだん時間割引率が低くなっていって、その後、数年してようやく家族に対する利他性が高まっていった。

忍耐強さや利他性は、非認知能力の一種

教育の経済学の分野では長い間、IQで測られるような認知能力の研究が中心であった。だが今世紀に入ってから、ノーベル賞経済学者のジェームズ・J・ヘックマンの『幼児教育の経済学』のように、忍耐強さや対人スキルを含む非認知能力も注目されるようになった。ヘックマンは「学校と家庭での教育のために子供の就学前の介入プログラムが、非認知能力を高めることに大きな効果があった」ことを強調している。

非認知能力のなかでも、人格的な成長という側面からは、忍耐強さや利他性の形成が重要となる。これらについては、経済学で多くの研究がなされたわけではないが、教育の効果についての最近の研究があり、今後の発展が期待できる。

学校での教育の忍耐強さに対する効果についての研究では、スール・アラン (エセックス大学)とセダ・アータック (コッチ大学)のJournal of Political Economy に掲載されることが決定している最近の論文がある。小学校で将来の自分を想像する能力を高めるプログラムを実施することによって、子供たちの時間割引率が低くなるという非認知能力が高まる効果があったことが報告されている。

アランらの研究のために、このプログラムはトルコの教育省の許可を得てトルコの小学校で実施された。例としては、第1週に「ゼイネップのタイムマシーン」というケーススタディを行った。ゼイネップという名の少女が自転車が欲しくて買うために貯蓄する必要があるのだが、短期的に消費をしたいという誘惑を受けているというストーリーが語られた。

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