経済学は「人としての成長」を促進できるか

利他性や忍耐強さを身に付ける方法とは?

アリストテレスの徳倫理を経済学に取り入れる必要がある(写真:クラム / PIXTA)

高齢化が進んでいくと、介護や看護の仕事がますます重要になる。自分が年老いて、介護や看護のサービスを受けるときのことを想像してみると、貧しくなっても、無条件に大切にしてくれる人たちのお世話になるのが理想だと思う。

たとえばマザー・テレサは、世界で最も貧しい人たちのために活動したので、多くの人々は彼女が無条件の愛で奉仕したと感動したのだろう。しかしマザー・テレサは、職業として活動したわけではなかったし、無条件の愛はあまりに高い理想であって、多くの介護や看護に職業として携わる人たちに、そのような理想を求めるのは行き過ぎだろう。

こう考えると、自分が介護や看護のサービスを受けるときは、自分は無条件の愛の理想には達していないと謙虚に自覚しつつ、理想を目指して人格的に成長しようとしている人にお世話になりたいと思う。このような人格的な成長のための学習に関して、経済学からはどのような知見が得られるであろうか?

神経経済学でわかったこと

筆者が人格的な学習に注目するようになったのは、神経経済学の田中沙織(現・国際電気通信基礎技術研究所)の研究発表を2010年に聞いたときであった。神経経済学は、脳科学の手法を経済行動の解明に用いる分野である。この研究の概要は、大垣昌夫・田中沙織著『行動経済学』の第6章第5節に説明がある。

標準的な経済学では、個人は現在の効用(満足度)と、将来の効用を遠い将来ほど大きく割り引いて合計した生涯効用を最大化するように行動している、と考える。将来の効用を割り引く率を時間割引率と呼び、時間割引率が小さい人ほど忍耐強く、将来の自分の効用を大切にしたり、貯蓄を多くしたりするなどの傾向がある。

時間割引率は将来の各期の効用に一つだけあると仮定されているので、生涯効用のシステムは一つだけある。ところがこの研究発表では、脳内には異なる時間割引率で評価する複数のシステムが存在するという説得的な証拠が示された。

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