震災復興に必要なのは、「ふまじめ」な思想だ 「課題先進地区」福島・浜通りを見つめた7年半

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なぜこのような復興になってしまったのだろう。拙速な復興政策や、自立から遠ざかる賠償制度など、指摘できる問題も多々あるが、最大の原因が「思想の不在」だと筆者は考えている。どのような地域にしたいのか。そのために何をすべきなのか。そのビジョンが地域にないのだ。

復興とは文化による「地域づくり」

本来なら、そのビジョンをもとに再生事業の是非を問うべきだった。しかし、そのようなビジョンがもともとなく、課題の大きさゆえ、震災後にもそれを考える場が生まれなかった。

予算執行の期限などもあり、いたずらに地域の決断を急かしてしまった面もある。震災後の地域づくりに成功しているという被災地は、そう多くない。

復興とは、自分たちが持つ文化の力によって地域を再生し、自立していく、まさに「地域づくり」である。劇作家の平田オリザ氏は、自分たちで自分たちの文化を決め、それによって地域をつくろうという力を「文化の自己決定能力」と呼んだが、そのような復興を、被災地は成しえただろうか。これからは、文化を軸にしたまちづくり、思想のある地域づくりをしていかなければならない。復興の失敗を二度と繰り返さないためにも。

筆者は今年9月、本稿で書いたような主張や、これまでの活動で得られた経験を『新復興論』という本にまとめた。簡単に言えば、この地域で楽しく暮らす「ふまじめな」術を考えた本である。

うまいもの、楽しいことや面白い時間を遠くの人たちとシェアする。その先に思想が生まれ、地に足がついた復興が成しうるのではないか。そんな思いを込めて書いた。本のキーワードは「ふまじめ」や「外部」といった言葉だ。

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