SUVに群がる自動車メーカーの抱える不安 金脈掘り起こしたが枯れるのも時間の問題?

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言い換えれば趣味性を大切にするブランドにとって、今はSUVが必然の商品開発だ。ロールスロイスのような悪路がまったく似合わないブランドまで、SUVに注力する。悲壮感すら漂う成り行きとなった。

SUVは背が高くて車体が重く、空気抵抗も大きいから、今日のクルマが重視するエコロジーには矛盾するボディ形状だ。しかし背が低く軽いクルマで環境性能を高めても、高価格では売れず、話題性も乏しい。本当のエコカーは、スズキ「アルト」やダイハツ「ミライース」のようなコンパクトな軽自動車だが、儲からないから海外の主要メーカーは手を出さない。結果的に売れ筋から高級品、先進技術の搭載まで、何でもかんでもSUVになった。

今後の動向は?

問題は今後の動向だ。時間が経過すると、SUVの新鮮味が薄れてくる。このことはセダンを見ればわかるだろう。日本で乗用車が普及を開始したのは、今の5ナンバー規格が確立された1960年ごろで、主力のボディタイプはセダンであった。

その後、約30年間はセダンの時代が続いたが、1990年代の中盤になると売れ行きが下がり始めた。定番のスタイルが飽きられてきたからだ。税制改訂で3ナンバー車の税金が下がり、海外向けに開発された3ナンバーセダンを国内へ横流しするようになったことも、セダンの衰退を早めた。

今は前輪駆動をベースにしたシティ派SUVが普及を開始して20年少々を経過しているが、今後10年ほどの間に、セダンと同じく売れ行きを下げる可能性がある。

また10年後には、人口の多い団塊の世代(1940年代の後半生まれ)の人たちが、80歳前後に達することも考慮せねばならない。この世代は若いときにクルマにあこがれ、運転免許を取得するとローンを組んでも愛車を購入した。1980年代後半のバブル経済期には、日産シーマなどの高級車を乗りまわしている。運転免許保有者数の年齢構成を見ても、66~70歳は9%を上回って比率が高い。

団塊の世代にはクルマ好きが多いから、SUVを積極的に購入している。2005年ごろに「ちょいワルおやじ」という言葉が流行したが、この担い手も団塊の世代で、普及期の上級SUVを手に入れた。当時、販売店のセールスマンから「ひげを生やしてキャップを被った中年男性が、SUVを買いに来たときはチャンスだ。値引きの商談などをせずに、即決してくれることが多い」という話を聞いたことがある。

この世代は幼い頃に終戦直後の混乱期を逞しく生き抜き、若手社員のときは高度経済成長を支え、中年になるとバブル経済を牽引した。いわゆる肉食系が多く、お金を一生懸命に稼いで快く使う。いわば国内消費の原動力だ。この世代が80歳前後になって消費活動が落ち着くと、日本の経済に影響を与えてSUVの売れ行きにも響く。

団塊の世代がクルマのユーザーを引退してSUVの売れ行きが下がると、もはや趣味性の強いクルマは売りにくく、移動のツールになる。コンパクトカーや軽自動車が販売の中心になるだろう。

渡辺 陽一郎 カーライフ・ジャーナリスト

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わたなべ よういちろう / Yoichiro Watanabe

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまにケガを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人たちの視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

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