SUVに群がる自動車メーカーの抱える不安 金脈掘り起こしたが枯れるのも時間の問題?

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その一方でボディの上側は、ワゴンに近い形状だ。背が高いから、後席を含めて居住空間に余裕がある。ボディの後端にはリヤゲートが備わり、荷物の出し入れもしやすい。荷室に補助席を備えた3列シート車もあるから、短距離ならミニバンのような多人数乗車も可能だ。ファミリーカーとしても使いやすい。

この商品特徴がSUVの人気を高めた秘訣で、子育てを終えたクルマ好きのミニバンユーザーにも好評だ。子どもと一緒に行動する機会が減ると、極端に広い室内と3列目のシートは不要だが、ミニバンに慣れているから天井の低いセダンやワゴンは窮屈に感じてしまう。

そこでSUVに乗り替えるユーザーが少なくない。車内は2列シートのミニバンという造りで、前述の3列シートもあるから居住性や積載性も満足できる。クルマ好きにとって大切な外観のカッコ良さ、よく曲がるスポーティな走りも味わえる。

見方を変えると、トヨタ「アルファード&ヴェルファイア」の人気に通じる面もある。アルファード&ヴェルファイアはミニバンだが、威圧感を伴う背の高い大柄なボディが、豪華で広い車内と相まって人気を高めたからだ。SUVのフロントマスクは、アルファード&ヴェルファイアほどメッキを多用していないが、グリルはワイドに強調されて存在感が強く、似たところがある。

威圧的なフロントマスクは賛否両論だが、クルマを運転すると、自分の体力が増強されたような感覚になるのは確かだ。マツダが提唱する「人馬一体」は、トラックなども含めたすべての運転に当てはまり、高速道路では自分の体力を使って疾走している気分になる。デザインと運転感覚が力強いSUVは、クルマがドライバーに与える本能的な快感を増幅させる作用もあるだろう。

だから時々「SUVを運転すると気が大きくなる」という話を聞く。納得はできるが、この気持ちを野放しにすれば危険な運転に結び付くから、自制心も不可欠だ。

SUVが「最後の砦」

SUVが軽自動車やミニバンと違って、海外で人気を得たことも見逃せない。もともと欧州メーカーは、高重心で走行安定性の確保が難しいSUVには消極的だった。しかし2000年ごろから走りの技術が高まって実用化のメドも立ち、北米の旺盛な需要に押されてメルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン(VW)などがSUVの品ぞろえを増やし始めた。これが欧州本国の人気にも結び付き、今は中国を含めてSUVが世界的に注目されている。

日本のメーカーもSUVを積極的に開発して、車種数がそろってきた。欧州のプレミアムブランドが活発に輸入されると、SUVというカテゴリーのイメージも高まる。これらの相乗効果もあって、SUVが売れ行きを伸ばした。

自動車メーカーにとっては、SUVが「最後の砦」という思いもある。各社の商品企画担当者と話をすると「セダンやクーペは、今では日本だけでなく世界的に人気を落としている(フォードはセダンを廃止すると発表した)。そうなると乗用車のカテゴリーは、実用的なコンパクト&ミドルサイズハッチバックと、SUVに限られてしまう」という。

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