水産業の救世主? 海のダイヤ『クロマグロ』の養殖に大手企業が続々参入

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国内養殖の急増で餌や稚魚が高騰

海外と日本のマグロ養殖は若干異なる。海外では数十キログラムの成魚をいけすに入れて、半年間かけて餌を与えて脂肪分の多い「トロマグロ」に変身させる。本来ならツナ缶に加工されるはずの安いマグロに付加価値をつけて、日本に輸出するビジネスモデルだ。年間約2万トン超のクロマグロやミナミマグロが出回る。

これに対し、日本では稚魚のヨコワを2~3年かけて大きくするのが主流。国産のクロマグロは値段が高くコストに見合わない。しかしヨコワなら漁獲枠は制限されておらず、1匹2000~5000円と原価は低い。さらに天然マグロが100キログラム近くの巨体であるのに対し、国内の養殖マグロは30~50キログラムが主流。「小さいサイズのほうが、回転ずしやスーパーでは扱いやすいと好まれる」(日本水産飼料養殖事業部の高橋誠治部長)。規格の安定したマグロを調達できるのも養殖のメリット。大手スーパーや外食向けに、引き合いは増えているという。

ただし養殖期間が長く初期投資も数億円が必要なため、個人の漁業者は二の足を踏んでしまう。企業を誘致する漁協が増えている背景には、こんな事情もある。長崎県は2013年までに養殖マグロ生産量を06年の4倍に相当する2000トンに増やす「養殖振興プラン」を策定しており、双日や東洋冷蔵はこれに参加した格好だ。漁協側もヨコワや餌を買ってもらうなどメリットがある。

企業の参入障壁は低くなったが、課題も多い。昨年から養殖が急増しており、餌が足りないのだ。回遊魚のマグロを1キログラム太らせるのに必要な餌は、12~15キロ。タイのように配合飼料は普及しておらず、近海で獲れたサバやアジ、サンマの生餌が必要だ。これが「今年に入り2~3割上昇した」(水産庁)。これまで約40円/キログラムだった餌が、一時は70~80円まで上昇したこともあった。今年から水産庁はサンマの漁獲可能量(TAC)を15%増やしたが、ロシアなどへの輸出が増えており効果は見えづらい。


 さらに稚魚のヨコワも品薄感から高騰している。一本釣りで調達し、生きたままいけすに運ぶため高値だが、最近は1匹4500円程度に高止まりしている。それでも「ヨコワが足りないと遠方の漁協から連絡が入ることもある」と漁業関係者は明かす。サイズによって8000円に上昇する場合もあるという。

生産コストが上昇する半面、「生産量が増えてマグロ価格が下落するのでは」と心配する声も多い。現在、国内の養殖マグロはキロ当たり3500円程度で取引されており、海外の養殖マグロ2500円と差別化できている。しかし10年にかけて出回り量は、07年度の2倍に相当する1万トン弱に膨らむという試算もある。そうなれば、価格下落は避けられそうにない。

はたして事業は軌道に乗るのか。不安と期待を背負い、全国のいけすで数万匹のヨコワが泳いでいる。

(週刊東洋経済)

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