大阪駐在の台湾外交官はなぜ死を選んだのか 関空での対応で論争、きっかけはSNSだった

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蘇氏は今年7月に大阪の代表として着任したばかりだった。1957年に台湾南部の嘉義(かぎ)県で生まれ、大学で日本語を専攻した。大阪大学大学院でも日本学を学び修士号を取得。1991年に外交部の官僚となって30年近く日台関係の最前線で活躍していた。

2013年12月からは沖縄にある那覇弁事処のトップを務めた。沖縄駐在中は地元の人たちと家族ぐるみで付き合うこともあったほど積極的に交流を深め、沖縄の政財界からも慕われていた。

7月から大阪に異動することが決まると、沖縄の知人らに別れの挨拶に回り、「学生としてお世話になった大阪でより一層、日台関係のために頑張りたい」と抱負を話していたという。

「世論に殺されたも同然だ」

台湾内では蘇氏の死を悼む声が続々と出た。台湾総統府は「深い悲しみとやるせない思い」だと表明。与野党の多くの立法委員からも追悼メッセージが発せられた。民進党の管碧玲立法委員は、フェイスブックに掲載した追悼コメントで「世論に殺されたも同然だ」と指摘した。

東京外国語大学の小笠原欣幸准教授は「モンスター選挙民」の存在と「民主主義の自傷行為」が一連の事態の根底にあったと分析する。

「台湾の有権者は自分が主人という意識と上(政権)がなんでもしてくれるという意識を持ち、過度な要求をする『モンスター選挙民』と化している。野党は政権の政策を全面否定して追い込むが、自分が与党になればブーメランとなって政権が行きづまる。与野党ともに台湾の民主主義を傷つける『自傷行為』が続いている」(小笠原氏)。

実際、歴代政権は自然災害の対応で毎回糾弾され、そのつど支持率を落としてきた。自然災害は歴代政権の鬼門であり、そうした背景が事態を大きくしてしまった側面がある。

今回の蘇氏の一件を受け、台湾内ではフェイクニュースをSNS上で共有するのをやめ、政党の無意味な非難合戦をやめるように求める動きも出てきた。今回の一件で台湾社会は転機を迎えるのか。蘇氏の死から何を学ぶのかが問われている。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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