大阪駐在の台湾外交官はなぜ死を選んだのか 関空での対応で論争、きっかけはSNSだった
これを受け、台湾のネットユーザーはSNSを中心に、台湾外交当局に対し「なぜ(中国は動いたのに)駐日代表処は動かないのか」と批判を展開。主要な台湾メディアも、新聞・テレビ・ネットで真偽不明と断りを入れつつも中国旅客が優先的に避難し、大阪弁事処が何も対応できていないと報道を展開した。
報道の盛り上がりを受け、台湾の政治家はすばやく反応した。最大野党・中国国民党の立法委員(国会議員に相当)らは6日、独自に外交官僚を招聘して公開ヒアリングを実施。台湾の駐日代表処と中国大使館の比較を通し、いかに準備が不十分だったかを質問した。
一方、批判の矛先になっていた謝長廷・駐日代表(大使)は与党・民進党の重鎮。民進党の幹部は「謝代表を守ろうとする雰囲気があって、責任はすべて外交部、とくに駐大阪弁事処に押しつけようとしたところはあった」と明かす。
謝氏も台湾メディアに対し「(東京にある)代表処ではなく大阪弁事処が電話対応している。大阪弁事処は外交部の直接管理下にあるのだから外交部が処理すべきだ」と話していた。
与野党の対応を受けて、台湾世論はさらに盛り上がった。ネット上では「代表処は宿泊先を用意してあげろ」「救援のチャーター機を出せ」など過剰な要求を求めるコメントも出続けた。そして加熱したネット情報を見て、メディアや政治家が反応するという悪循環が発生した。
外交部の職員は「政治家は世論をあおり、世論も応えてしまった。関空で死者は出ていないのに」と、政治家と有権者の過剰反応に困惑したと話す。台湾では11月には統一地方選挙が予定されていることもあり、与野党は世論の反応に敏感な時期だ。
実はフェイクニュースだった
だが報道後に発覚したのは、中国大使館が自国民を優先的に避難させたというのは、フェイク(偽)ニュースだということだった。関西エアポートの広報担当者は「中国の領事館が手配したバスが関空内に入ったことや中国人旅行者を優先的に避難させた事実はない」と話している。
結果として台湾メディアは、フェイクニュースを拡散させてしまったようだ。一部には「中国側は台湾と比較して自分たちがいかにすばらしいかをアピールして、台湾世論を混乱させるための工作だったのでは」(前出の外交部幹部)との見方も出ている。
台湾外交部は9月15日、関空での対応が適切だったか、駐日職員が大阪に集まり精査するとしていた。蘇氏が自殺したのはその前日だった。
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