「神風」に反応。個人投資家はくじけない 今後のカギ握る安倍政権の決断

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新規参入組が支えた円安

外為市場では、昨年11月14日に野田佳彦前首相が衆院解散を明言してから円安に振れた。ドル/円は今年5月に103.74円まで上昇、野田前首相の解散表明前日の終値79.38円から30.7%上昇したことになる。

ヘッジファンドなど外国人投資家の円売り・株買いトレードが主体とみられているが、日本の「ミセス・ワタナベ」も、その一翼を担った。外国為替証拠金取引の証拠金残高は4─6月に1兆2327億円と、今の円安相場が始まる前の12年7─9月期に比べ12%増加した。

外為どっとコム総研の神田卓也調査部長によると、アベノミクスで新規参入した個人投資家には50代以上の男性が多い。「かつての200円台、300円台を実感として知っている層からすれば、2012年の70円台、80円台のドル/円は非常に割安感があったのだろう。そこにアベノミクスで株高/円安という号令がかかったので、そうした年齢層の投資意欲を刺激した可能性が高い」と神田氏は分析する。

新規参入した50代以上の投資家の取引頻度は比較的ゆっくりで「アベノミクスで株高/円安が長期的な傾向として定着するとの見方の下に、外貨預金的な感覚でFXに参入した投資家が少なからずいたようだ」(神田氏)という。

「神風」で終わらせないために

投資機会を待ち望んでいた個人投資家にとって、アベノミクス相場は「神風」だったようだ。だが、それはほんの一部。全体でみれば「貯蓄から投資」への動きはほとんど見られない。

4─6月の資金循環統計では、家計は株式・出資金を3兆1000億円売り越す一方、投信は株式投信を中心に2兆8000億円の買い越し。リスク資産からリスク資産への「乗り換え」が起きたに過ぎない。「20年にわたる株価低迷で疲弊したリスクマインドを変えるのは容易ではない」(外資系証券ストラテジスト)という。

同時期に海外勢は株式・出資金を5兆4000億円買い越しており、塩漬けになっていた日本の家計が保有する株を海外勢が買い取った構図が浮かび上がる。

神風は何回も吹くわけではない──慶應義塾大学・経済学部の辻村和佑教授はこう話す。貯蓄から投資への流れを本格化させるには、日本の産業構造の転換が必要だと辻村教授は説く。飲食料品や衣料品といった、国内需要が高いにもかかわらず国内での供給力が乏しく生産性が低い分野に積極的に投資するべきだと指摘する。

一方、ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミスト、上野剛志氏は、1%台のマイルドな物価上昇率が持続すれば現預金での運用に慣れきった家計のマネーが株や投信にしみだすとみている。

家計に吹いた神風を「一陣の風」に終わらせないために、株高/円安の再来を期待する市場関係者は多い。株高/円安が止まっていることで、個人投資家が新規に参入するのをためらうのではないか、と懸念する向きもある。

海外勢の期待を背負ってアベノミクス相場と呼ばれるまでになった安倍政権の政策にも、ここに来て期待を後退させるニュースが目立つようになった。株高の再来のためには海外経済の落ち着きも欠かせないが「政治の役割も非常に大事になってくる」とニッセイ基礎研究所の上野氏は話している。

(和田崇彦 編集:田巻一彦)

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