JR7社の「収益格差」どうすれば解決できた? 国鉄改革「答申書」で分割民営化を振り返る

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とはいえ、いま紹介したような分割方法では、整備新幹線の開業と引き換えに並行在来線の経営を分離するという方策は採用できないので、東北新幹線の盛岡―新青森間、北陸、九州、北海道の各新幹線はいまとは異なった経営形態で開業していたかもしれない。

JR各社が現在の姿になった背景

それでは、今日の分割方法がどのような根拠で定められたのかを答申書から引用しよう。

ア.現在の旅客流動の実態や鉄道輸送に課せられた今後の役割を考えると、首都圏や近畿圏などの大都市圏内交通の分野については、分割によって輸送量の多い旅客流動を分断することなくこれを一体的に経営する方が、サービスの低下を防ぐとともに分割に伴うコストを極力小さくする上で望ましい。また、新幹線に代表される都市間輸送の分野についても、サービスの向上等によって航空、高速道路等との激しい競争に耐え抜くためには、できる限り旅客流動のまとまりに配慮して分割すべきである。
イ.このような観点から、本州についての旅客流動のまとまりを見ると、
1)東京の国電区間を中心とする首都圏の交通と、首都圏と強い結びつきを有する東北地方及び甲信越地方の都市間の流動を担う東北・上越新幹線等を一体としたグループ
2)都市間輸送の分野では最も輸送量の多い首都圏と近畿圏の二大都市圏間の流動を担う東海道新幹線と、名古屋を中心としたまとまりを持つ中京圏の交通を一体としたグループ
3)京阪神の国電区間を中心とする近畿圏の交通と、近畿圏との強い結びつきを有する西日本の都市間の流動を担う山陽新幹線等及び北陸地方とを一体としたグループ
の3つに大きく分けることができる。この場合の旅客流動のグループ内完結度は98%にも達する高いものとなっている。
また、北海道、四国、九州の3島については、旅客流動の地域内完結度が95%~99%とこれも極めて高い。
以上のことから考えて、本州については、上に述べた3つのグループに分けるとともに、北海道、四国、九州を分離した全国6地域に分割することが適切である。

貨物運送事業を旅客運送事業と切り離し、全国一元で営業を行うように分割した理由も見ていこう。

貨物部門については、貨物の流動実態や列車の運行実態、さらには業務運営のあり方等において旅客部門と事情が大きく異なっていることを十分考慮する必要がある。また、現在、客貨一体の運営体制の下で、経営責任が不明確となり、貨物部門の合理化・効率化を大きく遅らせ、結果として国鉄の経営全体にも悪影響を及ぼすなど様々な問題を生じていることにも留意すべきである。
このような事情にある鉄道貨物輸送が、将来にわたり相応の役割を果たしていくためには、経営責任を明確化し、貨物輸送にふさわしい経営施策を展開できるような体制を確立することが不可欠の条件である。このため、旅客部門を以下で述べるように分割(筆者注:現行のJR6旅客会社への分割)することを前提として、貨物部門については、旅客部門から経営を分離し、その事業特性に沿って全国一元的に鉄道貨物事業を運営できる独立した事業体とする。
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