JR7社の「収益格差」どうすれば解決できた? 国鉄改革「答申書」で分割民営化を振り返る

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こうして現在のJR各社が誕生した。委員会の意見はもっともだが、どことなく結論を先に決め、理由を後から付けたようにも感じられる。というのも、依然として旅客会社間での収益格差は大きいからだ。

実を言うと、委員会も国鉄をどのような形で分割しても「事業体間の収益格差ができるだけ平準化するよう」にという目標を達成することは難しいと考えていた。JR旅客会社間の収益格差は本州と北海道、四国、九州との間、本州でも3社の間では条件が異なるからだ。

新幹線で生まれる収益格差

現行の分割案を提案するにあたり、「安定的な経営基盤の確保については、別途の収益調整措置を講ずることによって担保する」として、JR北海道、JR四国、JR九州の3社が鉄道事業で生じた損失を経営安定基金の運用益で補う仕組みを講じる。一方、本州のJR旅客会社間の収益格差は新幹線鉄道保有機構を設けることで解決しようとした。

先に触れたとおり、収益格差は新幹線、それも東海道新幹線をどの会社が所有するかで生じるからだ。そこで、新幹線だけはJR旅客会社が所有せず、国が設置した機関の持ち物として、営業を行うJR旅客会社に貸し出せばよいと考える。

新幹線鉄道保有機構は、本州のJR旅客会社3社が各新幹線を買い取ることとした結果、役割を終えて1991年10月1日に廃止された。委員会が苦心の結果生み出した分割案はこの時点で崩れ去ってしまったと言ってよい。一方、JR貨物は、貨物運送専門で全国一元の組織として発足した。

委員会は国鉄の営業最終日となる1987年3月31日に解散した。その後のJR各社の動向について、委員各人の意見は聞かれたが、委員会としてどのような見解が出されたのかは知る由もない。

梅原 淳 鉄道ジャーナリスト

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うめはら じゅん / Jun Umehara

1965年生まれ。三井銀行(現・三井住友銀行)、月刊『鉄道ファン』編集部などを経て、2000年に独立。著書多数。

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