「ペルソナ5」のゲーム性に映る人生の広がり そこに海外RPGとは異なる自由度がある

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現実世界に目を転じてみれば、今でこそ、お金さえあれば大抵どこにでも好き勝手に行くことができるが、僕たちのような40代がまだ未成年だった20年以上前は生活の場所は近所に限られていた。

自ら生活をするすべを持たない未成年者たちは、限られた場所、限られた人間関係に縛られる中で、スクールカーストができたり、またいじめたりいじめられたりという関係性のなかで、窮屈感をつねに受け入れながら、なんとか生き延びてきた。それもいずれ変わるときが来る。その1つが実家から出て、新しい暮らしを始めるときだろう。

僕も、生まれた土地を出て東京で暮らし始めたときに、とんでもない解放感を覚えたものである。『ペルソナ5』はそんなフレッシュな解放感を追体験させてくれる。

この拘束と解放というモチーフは「ベルベットルーム」でハッキリと表現されている。ペルソナ使いである主人公を受け入れ、ペルソナの合体や強化を行うベルベットルームはシリーズおなじみの施設だが、今回の主人公は丁重にもてなされる客人ではない。

前作までの甲高い声とは違い、すっかり低く渋い声にイメージチェンジしたベルベットルームの管理人、イゴールによって、主人公は「囚人」として扱われる。

またペルソナの合体もギロチンで処刑するという、一見残酷なものである。そこには、それまでのものを切断することで解放し、新たな力を手に入れるという様式が含まれている。

過去から切断されることで大きく広がる世界

『ペルソナ5』の主人公は前歴をつけられるという不本意な形で地元を離れることになる。新しい土地でさまざまな人たちと出会い、その世界は大きく広がっていく。いわば、主人公自身も過去から切断されることで、世界は大きく広がるのである。

そしてそれは『ペルソナ5』というゲーム全体を包むテーマであると、僕は考えている。

怪盗団を縛りつけようとする世間と、束縛を切断する力を持つ怪盗団。その離反は最終的にどこに行き着くのか。ゲーム終盤からエンディングまでの流れは、実に現代的なテーマを含んでいる。

現代的でありながら、そのプレー感は古い言葉で言えばジュブナイルである。ティーンエイジャーが、新しい世界で大きく成長していく物語。そんな昔ながらでありながら王道のストーリー。

システム的にも新しいモダンと古いクラシックが入り混じる『ペルソナ5』は、今後遊ぶRPGのベンチマークとして、僕の中では機能しそうである。

赤木 智弘 フリーライター

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あかぎ ともひろ / Tomohiro Akagi

1975年栃木県生まれ。2007年にフリーターとして働きながら『論座』に「『丸山眞男』をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。」を執筆し、話題を呼ぶ。以後、貧困問題などをテーマに執筆。主な著書に『若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か』『「当たり前」をひっぱたく 過ちを見過ごさないために』などがある。

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