大坂選手曰(いわ)く、「彼は非常にいい人で、ポジティブで陽気。私は落ち込むことが多いので(相性がいい)」と説明したが、ひょうひょうと見える彼女も、実はネガティブ思考で悩むことも多いらしい。
バイン氏は、インタビューで、「彼女は完璧主義で、自分自身に厳しすぎるところがあるから僕は真逆でいなければならない。だから『大丈夫。地球は丸くて、草は青いさ、すべてうまくいく』って言うんだ」と語っている。「最初はもっと内にこもり、控えめだった」という大坂選手を徹底的にリラックスさせ、その殻から出てくるように導き、ムードメーカーとして励まし続けた。
その様子は試合中の2人のやり取りを映したこの動画からもうかがえる。自信をなくし、涙を流す彼女に、「できるよ」「深呼吸して」「みんなわかってる。君はできるんだよ」と優しく、暗示をかけるように粘り強く励まし続ける。
「オーバーコーチング」をしないことが重要
彼は「誰かが、選手にどちらの道を行けと指示するのではなく、選手が自分で道を見つけられるほうが価値がある。だから僕はある程度、選択肢を狭めておいて、最終的には、つねに彼女が自分で決断をできるだけの余地を残しておくことが大切だ」と述べている。
つまり「オーバーコーチング」をしないということが重要だというのだ。
スポーツの世界でカギとなるのはもちろん選手の実力だが、それと同等、時にそれ以上、重要なのがコーチや指導者の「コミュ力」である。指導者のコミュ力と選手の実績とは絶対に「正比例」する。青山学院大学の駅伝チームの原晋監督やワールドカップでの大躍進を導いた元ラグビー日本代表監督エディ・ジョーンズ氏(参考記事「青学・原監督の『コミュ力』は何がスゴいのか」)などはまさに、バインコーチ同様、選手との対話を重視し、自ら考えさせ、選び取らせるスタイルで成功を収めた。
ひるがえって、日本ではまだまだ、コーチが一方的に怒鳴りつけ、根性主義で、「教え込もう」とする指導も健在だ。選手を殴りつける、恫喝するなど、ゲスの極みのような慣行も存在する。
大坂選手の優勝に、2020年の東京五輪の「顔」が見つかったと安堵する関係者も多いかもしれないが、彼女のこの偉業に、日本のスポーツ界や関係者の功績といえるものはそれほどないだろう。
次々と露呈するパワハラ体質を抜本的に改め、徹底的に指導者のコミュニケーション力を鍛えることが急務だ。大坂選手の快挙は大いにたたえつつも、浮かれている余裕など、日本のスポーツ界にはこれっぽっちもないのである。
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