しかし、中西会長が「日程のみではなく、採用選考活動のあり方から議論をしたい」と”踏み込んだ”発言をしたことで、廃止が有力な選択肢の1つになったと考えていいだろう。今後は経団連でさらに突っこんだ議論が繰り広げられることになる。
そもそも「指針廃止」は、早い段間から考えられていた。今年3月の時点でいくつかの検討案が出されていたというが、すでにその内容の筆頭には指針の廃止が掲げられていたという。
ではなぜ廃止という議論に進んでいるのか? 中西会長は会見で、「終身雇用、新卒一括採用をはじめとするこれまでのやり方では、成り立たなくなっていると感じている」と認めているとおり、従来の慣行だった「新卒一括採用」に問題提起をしているのだ。
ただ理由はそれだけではない。経団連自身が就職・採用活動のスケジュールを取り決めることにも限界を感じているようだ。政府や教育界からの要請に応じて指針を定めても、評価されるどころか、批判の対象になるばかり。さらに外資系やベンチャー企業など、そもそも指針を守らない企業が続出する現状に対し、経団連の関係者から不満の声が後を絶たなかった。
「ルールを守っているほうが損をする」
象徴的だったのが2016年卒採用時に行われた、選考開始の解禁日を4月1日から8月1日に後ろ倒しにした改定だろう。この時期変更は、大学生の学習時間の確保や留学等の促進を進めたい政府側が変更を要請し、それを経団連が受け入れた形で見直された。首相の音頭で決められたにもかかわらず、「暑い時期に就活なんて」「3月解禁で8月選考は長すぎる」と、結果的に経団連が批判の矢面に立たされてしまった。
人手不足、売り手市場の昨今、経団連の指針を守らずに採用する企業は後を絶たず、企業の採用担当者の間では、「いい人材を集めるには指針を破らないと」という考えすら蔓延している。実質的に3月以前に行われるインターンシップを、実質的な採用の場として活用している企業が多数となっており、「ルールを守っているほうが損をする」という状況なのだ。
そう考えれば、形骸化している指針を、無理に続ける必要はない。よい人材を確保したい経団連加盟企業の担当者からすれば、一日も早く縛りをなくし、先行して採用している外資やベンチャーなどに対抗したい気持ちはうなずける。
ただし、指針がなくなることについて、すべての企業や採用担当者がもろ手をあげて賛成、というわけではない。何より通年採用になると、活動が長期化し、採用担当者の負担はかなり大きくなる。
現状でも、3月以降の採用・選考だけでなく、夏のインターンシップや冬のインターンシップでも稼働しており、「実質的に一年中採用活動をしているような状況で採用担当者は疲弊している」(就職業界関係者)という声が漏れる。今でも、リクルーティングや面接などの応援も含めて社内でかなりの人材を割いており、効率性という観点からもデメリットは多い。また中途採用者と違って、新卒には研修を経る必要があり、時期がバラバラだと研修の運営も非効率となる。
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