また、ある程度の”目安”がないと、いつから動いていいかという不安も生まれる。学業に配慮せず早期に採用を行うと、批判の対象にもなるし、かといって、他社より出遅れて人材の獲得に失敗するのも困る。「まったくスケジュールの日程がないというのは現実的でない。何かしらの目安があったほうがいい」と採用コンサルタントの谷出正直氏は指摘する。
一方、大学側は対照的に、スケジュールの「維持」を望んでいる。
経団連の議論を待たずに6月26日、私立大学団体連合会は「就職・採用活動等に関する基本的考え方」を公表。その中で、「2021年卒以降の就職・採用活動の時期については、現行のスケジュールを堅持すべきである」とわざわざ表明している。スケジュールが前倒しになり、早期化が進むことを懸念して出したメッセージだが、数年で時期が変わることは、長期留学などの阻害要因になるとも指摘する。
ただ、こうした時期に関する議論は過去何度も繰り返されており、中西会長も承知しているはずだ。それでも廃止表明をしたということは、かなりの”決意”があると考えていいだろう。そう考えると経団連が「就職・採用日程を決める立場」から撤退する可能性は高い。
採用日程を決めないと困る人が増える?
だがしかし、事は単純でない。たとえ経団連がルールを決めなくても、別な機関が「新たな採用ルール」を設けるかもしれないからだ。その候補は、就職情報会社であり、政府(文部科学省や厚生労働省)、そして大学である。
まず1つ、「リクナビ」「マイナビ」などナビサイトを運営する就職情報会社は、採用広告を企業から集めたり、合同企業説明会を募集したりすることでビジネスを成立させている。その募集のために、自社の営業スタッフだけでなく多くの代理店を使って、掲載企業や説明会への出展企業を集めているのが現状である。
大学生への配慮や早期化の抑制というのも名目としてあるが、営業スタッフや代理店向けに「いつから何を募集するか」「学生が多く来る時期はどこか」という営業開始時期をこれまで置いてきた。解禁日をいつにするかといった時期を設定する必要がありわけで、経団連がルールを決めなくても、彼らが自主的に設定することが考えられる。
実際、経団連が「採用広報の解禁」という概念を導入する前の2012年卒の採用までは、業界団体の取り決めとして、大学3年生の10月1日を就職情報サイトの「グランドオープン」にしていた。
今でもインターンシップの募集などの情報解禁は3年生の6月に設定されているが、これもかつては就職情報会社の業界団体が早期化を抑制するために、「大学3年生の6月以前に採用情報の提供をしない」ことを取り決めたルールの名残りになっている。少なくとも就職情報会社が採用広報の解禁日を設定することは不可能でない。
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