日本の中年男性がハマる「タテ社会の孤独」 共感力を失う人がなぜ続出するのか

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徹底的に「タテ」関係を重視し、先輩・後輩、上司・部下といったように、目下のものは目上の者を敬うべき、敬語で奉るべき、という「長幼の序」的慣習は、「礼儀」であり「常識」であるという考え方は日本ではまだまだ根強い。一方で、行きすぎた上下関係の厳しさが日本社会の圧迫感につながっている点は否めないだろう。

部活や、学校・会社での理不尽なまでのタテ意識は世界的に見ても希有だ。「序列意識なしには席に着くこともできないし、しゃべることもできない」(同書)わけで、自分が話している相手より上か下かを見極めないと、おちおち話せないということになる。そもそも、尊敬語、謙譲語、丁寧語、など相手の立場に応じて、3種類もの敬語を使い分けている国はほかにない。

こうした徹底的タテ社会のコミュニケーションに慣れてしまうと、フラット(水平的な)関係性を作るのが極めて難しくなる。

中根氏は、タテ社会という特色に加えて、「『家』や『職場』という閉鎖的な『ウチ』とそれ以外の『ソト』との壁が厚く、知らない人はすべて『ヨソ者』ととらえ、そうした精神性が『社交性の欠如』」を生む」と分析したが、見ず知らずの人とのコミュニケーションの壁が非常に高いのも日本の特徴だ。

アメリカと日本における人間関係の大きな違い

アメリカに住んで気づいたのは、初めて会う人と会話を交わす機会が非常に多いことだ。エレベーターでも、電車でも、店でも、レストランでも、何気ないきっかけで会話がスタートする。「そのドレス素敵ね」「今日は暑いね」「何を買ったの?」など、たわいのない話だ。

パーティや街角、学校、会社など、どこでも会話が始まり、こういったきっかけから、知り合いになる人もたくさんいる。女性も男性も関係なく、多くの人が「雑談力」の本など読まずとも、何気ない会話の糸口を知っている。

こうした会話では、どちらが目上か、目下かなどといったことを考えることはまずないし、会社の中でも、「先輩」「後輩」もなく、「Boss」(上司)と自分、もしくは「Colleague」(同僚)と自分といった関係性ぐらいである。社長であっても、ファーストネームで呼び、「序列」を意識して、恭しく話す必要などまったくない。基本は多くの人間関係が対等であり、フラットなコミュニケーションによって胸襟を開き、人間関係を構築していく。

拙著『世界一孤独な日本のオジサン』の中で、なぜ、日本の中高年男性が孤独になりやすいのかについてつぶさに分析したが、複層的な社会的、文化的要因が絡み合うなかで、「主犯格」の一つではないかと筆者が感じているのが、日本の特殊な「タテ」縛りの人間関係だ。

会社という強烈な「タテ緊縛社会」の中に長年、身を置くと、横の水平的なつながりを作ることがあまりなく、友人や知人、近所づきあいなどが不得手になりやすい。

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