過重労働に心を殺されないスキルは「表現」だ 30日連勤200時間残業…僕はペンを執った

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過重労働に心身を殺されてはいけない。自らの「ワーク」を見つけよう(写真:AH86/iStock)

見出しに踊る数字だが、実際に私がその労働環境で働いたのは、編集プロダクション勤務時代に一度、出版社勤務時代に一度ずつである。いつもその働き方をしていたのでは、柔道二段、剣道二段と体力にそこそこ自信のある私も、さすがに持たない。

もっとも、だからと言ってそれ以外の月日は定時で帰れていたかというと、そんなこともない。出版業界はブラック企業の巣窟である。疑う余地のないほどの斜陽産業だが、そういう業界ほど、昨日と同じ儲け方に固執する。沈みつつある船を乗り換えるでも乗り捨てるでもなく、沈まないようにする抗力と沈みながらもなお前進しようとする努力、その双方を現場は強いられるがゆえに、昨日も今日も、そして明日も出版業界で働く人間は忙しい。

大学院を出た後、最初は文筆業で生計を立てながら、やがて編集者として出版業界により深くかかわりながら働くようになった私の経験をベースに、労働者として働きながら、いかにして自分という存在を守るかについて語ることにしたい。

「ジョブ」と「ワーク」の違いを知る

過重な労働は心をむしばむ。つらい状況を乗り越えようとがんばれば心は擦り減り、苦難を乗り越えられなければ心に穴が開く。私が『労働者のための漫画の描き方教室』を著したのは、そうした心にダメージを負う労働者に対して、「表現することで心を守ることができる」と提案したかったからである。

なぜ「表現をする」ことが労働から心を守る結果につながるのか。結論から言えば、表現が労働者にとってのジョブとワークを分けてくれるからである。両者を分けることで、苦しい労働に覆われそうになる生活に、生きる楽しさが見えてくるようになる。本書中、ジョブは「金銭報酬を得るための労働」、ワークは「生きる上での目的」とそれぞれ私は定義した。

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