投資で外貨預金をするのはあまり意味がない 「外貨を持つ」のと「外国資産を持つ」のは違う

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でもそういった為替投機ではなく、「海外の高金利債券を持つのは意味があるのではないか」と思う人はいるでしょう。確かに現在の日本の低金利の状況を見ると、海外の高金利は魅力的に見えます。ところがこれも実はあまり意味はありません。いくら海外の高金利債券を持っていても結局は国内の債券を持っているのとほとんど変わらなくなるからです。 

2つの国の間の為替レートというものは長期で見れば、それぞれの購買力が等しくなるように収れんしていくと言われています。高金利通貨、すなわち、その国の金利が高いということは多くの場合、その国の物価上昇率が高いということであり、もし長期にわたって物価が上昇するというのであれば、その国の通貨の購買力は低下するということになります。

したがって購買力の低下幅がより大きい通貨の相場は、低インフレで低金利の通貨に対して長期的には下落することになりますから、いくら高金利通貨の債券を持っていても最終的には為替で調整され、国内の債券を持っているのと何ら変わりはなくなるのです。為替の変動を避けようと思えばヘッジするしかありませんが、その場合はヘッジにかかるコストによって国内債券と同じ金利水準になってしまいますからこれも同じことです。

外国資産を持つ意味とは?

このように、外貨預金や外貨建て債券を持つことはあまり意味がないと思いますが、外国資産を持つことにまったく意味がないというわけではありません。むしろ株式に関して言えば国内株式のみに投資するのではなく、広くグローバルに投資する必要があると思います。先日、あるデータを見ていて驚きました。1989年(平成元年)当時、世界の時価総額の大きな企業ベスト50には日本の企業が32社入っていたのに、2018年(平成30年)現在では同じベスト50にはトヨタ自動車1社しか日本の企業はなかったからです。この30年間の間に、世界の成長企業は大きく変わってしまっているのです。

このように時代とともに成長する企業、国、地域は変わっていくものです。かと言って、これからはどこの国や企業が良いかということは予想したとしてもそのとおりになるかどうかはわかりません。だとすれば広く世界全体の株式に分散して投資するというのは合理的な選択肢だと思います。幸いなことに現在では投資信託を使えば、こうしたグローバル分散投資が1万円とか1000円でも可能になります。しかも手数料だってそれほど高いわけではありません。つまりシンプルに世界中の株式に低コストで分散投資できる方法があるのです。

にもかかわらず、多くの金融機関で仕組みの複雑な外貨建て商品を熱心に勧めてくるのは「金利の高い外貨建て商品」が、ほぼ金利がゼロに近い円商品よりも金融機関にとっては手数料や利ザヤを稼げるというのがその理由だからなのでしょう。しかしながら、外貨建て資産に投資をするにあたって気をつけるべきことは2つあると思います。1つは「これからは通貨分散が必要だ」という一見もっともらしい勧誘文句についつられて、やたら手数料の高い仕組みの複雑な商品を買わないようにすることです。これはあらゆる金融商品に言えることですが、できるだけシンプルなもののほうが顧客にとっては良いことが多いからです。そして2つ目はいくら魅力的な商品のように見えても、単一の商品や通貨にまとめて投資するのは避けることです。外国資産を持つことの意味は資産の分散ということにあるわけですから、集中投資はなるべく避けるべきだからです。

この機会に外貨を持つことと外国資産を持つことの意味の違い、これを考え直してみることが必要と言えるのではないでしょうか。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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