神戸新聞が生んだ「高校野球」自動戦評の裏側 プログラマーではない社員のアイデアだった
――なるほど、高価なシステムを外注してつくったわけではなかったのですね。では、この開発の中で特に難しかったところはどこでしょう。
武藤:点数表の決め方ですね。「たくさん点が入った=重要なシーン」と単純に判断できるものでもないんですよね。戦評を読む側としては、どんな展開で勝敗が決まったのかが知りたい。なので、例えば打線がつながって5点が入った6回表よりも、サヨナラで2点が入った9回裏のほうが重要じゃないですか。ですから、どのシーンが試合に影響度が高く、戦評に抜き出すべきところなのか、重み付けの基準を決めるのに苦労しました。テストで作った文章をスポーツ記者に読んでもらったら「違和感がある」と言われてしまい、どうしたらいいのか頭をひねりました。
結果として、新聞社ならではの重み付けとしてこれまでに記者が書いた過去記事を学習させることにしました。試合を見た記者が記事にしたシーンは、試合展開の中で最も重要だったところですよね。AIに「このシーンは記事になった=とても重要なんだよ」と学ばせるのです。そうすることでより記者が書く文章に近づきますから、読み手に自然と受け入れてもらえると思いました。
社内の柔軟な判断で、日の目をみた「ロボットくん」
――実際に配信して、社内やTwitterユーザーからの反応はいかがでしたか。
川上:幸いにも、全試合で自然な文章ができましたので、お叱りをいただくことはありませんでした。違和感なく読んでもらえたのかもしれませんね。ただ、あまりに違和感のない内容すぎて、突っ込まれなかったというか、面白がってもらえなかったかもしれません。また、リリースを出したのが7月20日、運用開始が23日、配信終了が28日とかなり短い期間での運用だったこと、そしてツイートのインプレッションは相当数あったのですが、主に神戸新聞公式アカウントなどのリツイート先で閲覧されたこともあり、ロボットくんのTwitter自体のフォロワー数はそれほど伸びませんでした。今後取り組む場合は、もっと多くの方に関心を持ってもらえるようにしたいです。
ほかにも、社内からは運用前に「どんな内容になるかわからないような、自動生成された記事を外部に配信するのは不安だ」という声もありました。そのため、何かトラブルがあっても新聞社が発信する情報の信頼感を損ねないように、いろいろと見せ方を工夫しました。「ロボットくん」という名前を付けて、ゆるキャラのようなデザインにしたのも、あくまでプログラムが生成したコンテンツで、記者が書いたものではないとはっきり区別してもらうため。そして、発信場所を新聞社のサイトではなく、Twitterに限定したのも、実験的な試みであることを強調したかったためです。
もし変な文章が出てしまっても、「ロボットくんが壊れてしまった」という形でそのまま配信しようと決めていました。そのようなときこそ、ユーザーのみなさんにやさしく受け止めてもらえるように、壊れたとき用のアニメーションも作っていたんですよ。今回は残念ながら使わずに済みましたが……(笑)。