神戸新聞が生んだ「高校野球」自動戦評の裏側 プログラマーではない社員のアイデアだった

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川上:ニーズは高いと予想されていましたが、取材現場の運用の負担も大きく、始めるにあたりもっと注目を集めたいという思いがありました。そこでNEXTの編集部長が「このコンテンツを活用して、何か面白いことができないか」と記者経験もある武藤に相談したことが始まりです。

武藤:相談といっても飲みの席での雑談のような感じでした(笑)。私はプログラマーではないですが、その方面に少し興味があったので「記事の自動作成ならできそうですね」と提案しました。そしてできる範囲から業務外で作業を始めました。言ってみれば「日曜プログラマー」です。

――社内開発だったことに驚きました。

デジタル事業局の川上さん(左)と、「ロボットくん」開発者の武藤さん(写真:news Hack by Yahoo!ニュース)

武藤:もちろん完全にプロのようにはいかないので、見る人が見ればたどたどしいコードだと思います。でも数万円で買ったパソコンでも動くような軽いプログラムなので、環境的に難しくはありませんでした。わからないことはネットで検索して調べながら作りましたよ。

「こういうものを作れ」と言われたわけではなく、システマチックで詳細なデータがあるから活用しようというところから始まっているので、スムーズに実現したのかもしれません。自分たちができる範囲内で企画しましたからね。

どのような仕組みなのか

――プログラムとしては、どのような仕組みなのでしょうか。

武藤:文章を生成する仕組みは、それほど複雑なものではありません。まず「一打席速報」で使われる言葉の中から、試合の状況を伝えるために必要な情報の優先順位をつけ、そこから正しい文章を作れるようにしただけです。

優先順位のつけ方について詳しく説明すると、先ほどの例で言えば「一死満塁から3番長尾亮弥のファーストゴロファーストエラーで2点を先制」が具体的に得点に絡む言葉ですよね。この言葉を抜き出せるように、試合影響度の点数表を作り、AIに学習させました。例えば、数字が大きい得点シーン=試合への影響度が高いと判断させ、シーンを組み合わせていきます。プログラムには約12個のパラメータがあるので、そこから分析・算出しています。

試合が終了すると「経過戦評ロボットくん」が作った文章が自動で表示される(写真:news Hack by Yahoo!ニュース)

試合後、自動的につくられた原稿がパソコンの画面に出てきます。一応、担当者がチェックしてTwitterに投稿しているのですが、出てきた文章は全く編集していません。今年は14試合で「ロボットくん」による戦評を出しましたが、どの試合後も大きなエラーのない文章を作ってくれましたね。

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