神戸新聞が生んだ「高校野球」自動戦評の裏側

プログラマーではない社員のアイデアだった

川上:もう一つ、有料会員向けコンテンツである「一打席速報」をベースに生成した情報を、無料で外部のSNSに配信する点も懸念事項となりました。しかし、「弊社を知らない新しい層にリーチできるかもしれない」「記者による戦評が出る前の、ちょっとしたお楽しみ情報」と意味付けることで、社内の了解を得ました。

――歴史ある新聞社の対応としては、とても柔軟だという印象があります。

川上:社内のノンプログラマーがつくったものを会社のオフィシャルな取り組みとして活用できたのは、会社の風土が関係しているかもしれませんね。弊社では、記者であれば業務に関わりなく特定のテーマを追い続けている者など、いろいろな活動をしている人が多く、それぞれの知識や経験を持ち寄ることがそれほど珍しくないかもしれません。「面白いからやってみようよ」と背中を押してもらえたのは、ありがたかったですね。

地域密着型の新聞とAIで新しい形の情報発信を

――AIによってそれだけ自然な文章をつくることができたとなると、社内からもっとAIを活用して効率化してはとの声が上がりそうです。

武藤:そもそも球場で「一打席速報」を発信する人がいなければ、解析するデータがなくて「ロボットくん」の仕組みは成り立ちません。また取り組みを通じて、AIで作ったテキストと記者の書いた文書との違いも実感しました。プログラムは事実を淡々とまとめているだけなので、やはり読んだときに感じる「熱量」が違います。ですので、現時点ではAIにどんどん置き換えて、記者は少なくていいといった考えに至ることはないと思います。

ただ、正確なデータを定期的に発信できる状況とAIを組み合わせれば、データの中で重要なことは何かをわかりやすくまとめたり、記事にできたりするのはわかったので、これまで環境が整わず見送っていた情報を記事化するという発想は生まれてくるかもしれません。

野球ひとつとっても、記者が出向けないような大会や試合が地域にはいっぱいあります。地元の方が発信した試合のデータを読み取って記事のかたちでまとめ、弊社サイトなどで広く紹介していくことも検討できるかもしれません。

川上:一般の方々から見れば、新聞は昔ながらのメディアですし、特に地方にある新聞社であれば、AIのような新しい技術とは縁遠い存在と思われているかもしれません。しかし、今回のような取り組みを通じて、まだまだ面白いことができる可能性があるのだと、感じてもらえたらうれしいです。

地域に密着した新聞をつくっているといいながら、これまでの新聞のあり方ではカバーできていない、伝えきれていない情報、伝えなければならない情報がまだまだたくさんあるのではないかと思います。取り組める範囲はまだまだ小さいですが、技術をうまく活用することで可能になる情報発信のあり方を、模索していきたいと思います。

(取材・文:万谷絵美、編集:ノオト)

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