海外で働きたい理由
そんな日本人エリートの彼らが香港を目指すのはワケがある。彼らが語るのは毎度おなじみ(最近好転の兆しが見えるとはいえ長期的には不安材料の多い)“日本経済の閉塞感”で、バカ高い税金を持っていかれることを真っ先に挙げている。また国際的な環境で働きたいが東京はどうしても言語の壁も厚くて国際都市になりきれないと嘆く。
彼らの出身母体の総合商社では社員が数年、若くして海外に駐在することが多いが、南米のチリなどに赴任して、その解放感が気に入って帰国の辞令が出たときに従わず、そのままやめてしまった人もいるらしい。
以前はMBAを取った後、大抵の国の人は違う国で仕事を求めることが多いのに日本人は圧倒的に日本に帰って仕事をすることが多かったが、最近は傾向が変わってきているようだ。
中でも最近、私のコンサルティングファーム時代の友人が部下数人と奥さんを引き連れてシンガポールにオフィスを構える準備をしていたり、日本の外資系金融機関で働いていた数年下の後輩が独立してシンガポールにオフィスを構えたり、大手ヘッジファンドの東京支店を辞めて、その人は実質東京で働いているのだがオフィスや会社の設立はシンガポールだったりと、何かとシンガポール志向が強い。
意外と保守化が進むシンガポール
ただし近頃、シンガポールでは国内世論の保守化が進み、外国人労働者へのビサが急速におりにくくなっている。これは、最近議論されている日本の“経済特区構想”に対して追い風になるかもしれない。
失業率2%という空前の好景気が続くシンガポールだが、高給のポストが外国人に全部とられている、という世論の不満に配慮して、外資系企業などが外国人を雇おうとすると、政府に「シンガポール人ではなぜダメなのか、シンガポール人の中から同様のスキルを持つ人を探す努力をしたのか、そのような求人広告をどこで出したのか」などと厳しく問われるようになってきたのだ。
これは極めて残念なパターンであり、当初世界中の優秀な人材の磁石のような都市で幅広くオープンな国だったのに、徐々に保守化して門戸を閉ざし、衰えて行くという典型的な都市窮乏のパターンをシンガポールも歩もうとしているのだろうか。
シンガポール・香港・東京はせこく守りに入らず、ぜひ世界中から優秀な労働者がこぞって働きたくなるような魅力的な都市力を競って、アジアの新たな成長ステージを牽引してほしいものである。
ちなみに私の最初のコラムでも書いたが東京は住むには世界最高峰の都市のひとつなので、世界中から人材を集める“働きやすさ、働きがい”という意味でもぜひ香港・シンガポールと競ってほしいものである。
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