「貧困は自己責任」と断じる人の浅すぎる思慮 困難を抱える背景は1つでなく複数の事情だ

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つまり、そんな外的なイメージが、彼女たちの生活の実態を見えにくくしているということだ。事実、「なにが貧困だ。スマホを持っているじゃないか」「服だってきれいにしているじゃないか」というような誤解を受けて苦しんでいる人たちも多かったという。

しかし、それは上記のような生活をしている女の子たちだけではなく、貧困に苦しむ多くの人たちの共通点でもあるようだ。たとえば「序章 働かなければ学べない」で明らかにされている「学ぶために身を粉にして働き続ける子どもたち」の姿を確認すれば、そのことがよくわかる。

追い詰められる子どもたち

親からネグレクト(養育放棄)され、中学生のとき「捨て子」同然で家を出て、町工場で働きながら定時制高校で学ぶ女子高校生は、「寮費がかかる」という理由から給与は毎月1万4000円だけ。高校の教諭が「勤め先の状況がおかしい」と気づいたことがきっかけで別のアルバイト先に替わることができたが、タダ同然で働かせていた工場長から厳しく監視されていたため、夜逃げ同然でようやく逃げ出すしかなかった。

母親がガンで闘病している男子高校生は、自宅で母親を介助しながら、家計を支えるため、2人の弟の面倒も見ながらラーメン店でアルバイトをする日々。早朝6時前に起きて朝食をつくると弟たちに食べさせ、掃除や洗濯など朝の家事を終わらせてから家を出発。朝9時半から夕方4時までラーメン店で働くと、いったん家へ帰って母親の介助。それから定時制高校へ行って授業を受け、家に帰るのは10時すぎ。そこから洗濯物をたたんだり、洗い物をしたりなど残りの家事をする。

にわかには信じられないような話だが、いま実際に、働かなければ学べない、それどころか、食べていくこともできない子どもたちが増えているというのだ。

こう書くと、

「生活保護があるじゃないか」

と思う人は少なくないだろう。しかし、生活保護の手続きをする親が、それを拒んだり、できなかったりすれば、子どもたちは追い詰められる。結果、自分や家族を守るために、働くしかなくなる。高校生にアルバイトの理由をたずねると、大半が「家計のため」と答える時代を迎えているのだ。

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