「貧困は自己責任」と断じる人の浅すぎる思慮 困難を抱える背景は1つでなく複数の事情だ

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使い始めてすぐ、スマートフォンは欠かせない存在になった。
朝から晩まで働く母親の陽子さんとの連絡手段として、ライフラインの役割を果たしているからだ。弟も妹もスマートフォンや携帯電話を持っていないため、舞さんが母親との連絡役を務めている。
さらに、今は、中学生や高校生たちはスマートフォンが必需品になりつつある。友達どうしの関係を維持したり情報交換をしたりする上で、LINEやSNSが欠かせないためだ。スマホがないと友達の輪から外れてしまったり、話題についていけなかったりと、子どもたちの人間関係にも大きく関わる。(中略)
スマホは、さらに進学や就職活動などにも欠かせないものになりつつある。大学の願書の提出もインターネットから行う時代だ。(中略)
若者にとって生活全般に欠かせないスマホだが、それでも「スマホを持っていれば贅沢で、貧困とは言えない」と断じるのだろうか。(159〜160ページより)

子どもたちの実態以上に気になってしまったのが、こうした外部の無責任な発言だった。「自己責任」と断ずることでなにかが解決するのであれば、大いにすればいい。しかし現実的には、「自己責任発言=思考停止」なのではないだろうか。そもそも、そんなふうに割り切れるほど単純な問題ではないのだ。

自分の身に置き換えて考えてみる

子どもの貧困の最も大きな特徴のひとつは、見ようとしないと「見えない」ことだろう。子どものいる家庭が経済的な困難を抱える背景は、ひとつではなく、複雑な事情が絡み合っていることが多い。
親の離婚、借金、低賃金の仕事、精神疾患、家庭内暴力、虐待、ネグレクト、周囲からの孤立――ひとつでも大変な問題を、複数抱えているケースがほとんどだ。
当事者の親は、自分の生活を守ることで精一杯で、人に助けを求める余裕を失ってしまう。もしくは、「情けない状態を他人にみせたくない」という理由から、助けを求めること自体を嫌がったり避けたりする。その結果、周囲に気づかれないまま家族が孤立していく。
一方、その子どもは、家庭という閉ざされた空間の中で人知れず追い詰められていく。たとえるなら、「川の岩陰で溺れた状態だ」。(151ページより)

川で溺れる人がいたなら、「どうしたら救えるだろう?」と考えるが通常の思考ではないか。川に飛び込むという手もあるだろうし、泳げないならなんらかの手段を考えればいい。手段はいくらでもあるはずだ。

そして、そんなときに重要なのは、「溺れているのが自分だったとしたら」と考えてみることだろう。もちろん行動も大切だが、自分の身に置き換えて考えてみることも、同じように大切なことであるはずなのだから。

印南 敦史 作家、書評家

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いんなみ あつし / Atsushi Innami

1962年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「WEBRONZA」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」など紙媒体にも寄稿。『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)など著作多数。

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