中学受験で「万引き依存」に陥った子の現在 学校に行きたくない子に、伝えたいこと

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中学は地元の公立校へ。珍しいことではありませんが、中学はとても理不尽な世界でした。たとえば校則。「ワイシャツの下に着るTシャツは白」と決まっていたところ、ある友人が黄色いTシャツを着て登校しました。すると「最近あいつはモテたがりのモテ男だ」といううわさが広がり、間もなく彼は「いじめていい存在」になってしまいました。

「彼がなぜあんなに嫌われていったのかと考えると、たぶん、あの黄色いTシャツなんですよ。よく『公の厳しいルールがあると、その下にあるコミュニティのなかでも理不尽な掟ができやすい』と言われますけれど、それかもしれない。靴下の色とか、女子の髪を留めるゴムの色とか、下着の色とか、理不尽な校則が多かったから、生徒の間でもヘンな掟が強まってしまった」

通った公立中学でいじめが多発。「苦しいのは全部、自分が受験に失敗したせいだ」と思い込んだ(撮影:風間仁一郎)

いじめもよく起きていました。クラスには軽度の知的障害をもった子がいたのですが、その子もちょっとしたきっかけから標的にされていきます。

「同級生が彼を罵倒するなどは日常的だったし、プロレスごっこで彼が痛めつけられることもありました。一度、その子が階段から突き飛ばされる場面に出くわしたときは、身体が凍り付いてしまって。止められない自分が情けなかったし、加害意識も感じてしまい。

ひいきをする先生や、子どものことを全然考えない先生もいたし、そういうのが校則やいじめの理不尽さとあいまって、どんどんどんどん大きなものになっていって。気がついたら、自分の感情をコントロールできなくなっていました」

このとき石井さんは、「苦しいのは全部、自分が受験に失敗したせいだ」と考えていたといいます。もちろん実際には、それとこれとに直接の因果関係はないのですが。

小学生のときに塾で植え付けられた「いい学校に行かなければ、人生はない」という“呪いの言葉”が、中学生になった石井さんを苦しめるようになっていたのです。

中学生男子、西へ向かう

最終的に不登校に至るきっかけとなったのは、当時中学校ではやった集団万引きでした。石井さん自身はもうほとんどやらなくなっていたのですが、中学2年の冬、仲間たちとともに「先生の事情聴取」に遭ったのです。

「その先生のやり方が、ひどかった。ほかに万引きしている仲間の名前を1人でも言わないと殴られるし、帰らせてもらえない。だからもう、友人関係なんてぐちゃぐちゃですよ。お互いに、誰も信じられない。

僕は『お前だけ(仲間の名前を)言わなかった』というので殴られました。最初は言わないほうが正義だったんですけれど、途中から逆転して、『言って仲間を売る』というほうにしか仲間意識がもてなくなっていたんですね」

もはや訳がわからない状態ですが、これも「理不尽」に慣らされた成果でしょうか。価値観がひっくり返り、裏切りこそが正義になってしまったのです。ひと月ほど経つと、さすがに仲間うちでもおかしいとなり、「この話は不問に付そう」という雰囲気になりました。

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